【問題】
図1は、水力発電に必要なベルヌーイ(Bernoulli)の定理を導出するためのモデルを示している。水の流線に沿って座標軸\(s\)を取り、座標sの位置に底面積\(dA\)、高さ\(ds\)の水の微小円柱を考える。流れの上流面、下流面にかかる圧力をそれぞれ\(P\)、\(P’\)とする。図のように、円柱の軸は鉛直方向と角度\(\theta\)をなし、上流面、下流面のそれぞれ中心の高さは\(H\)、\(H+dH\)である。重力加速度を\(g\)、水の質量密度を\(\rho\)として、下記の導出過程の(i)~(v)にそれぞれ適した式を答えなさい。
神戸大学 電気電子工学専攻 電力工学 2022より抜粋
- 円柱の質量を\(m\)として、円柱にかかる重力軸向きの成分を\(\theta\)として表すと(i)となるが、\(m\)、\(\theta\)を用いず、\(dA,ds,dH\)で表すと、(ii)になる。
- 円柱にかかる座標軸方向の圧力は\(PdA-P’dA\)で、\(P’=P+\dfrac{dP}{ds}ds\)とすると、(iii)と整理される。
- 円柱の座標軸方向の速度を\(v\)とし、加速度を\(v\dfrac{dv}{ds}\)とすると、運動方程式は(iv)となる。共通の係数を消去して、全ての項を左辺に移して(v)となる。
- (v)をsで積分して、ベルヌーイの定理\begin{aligned}\rho g H+\dfrac{1}{2}\rho v^{2}+P=const\end{aligned}を得る。
ベルヌーイの定理とは
流体が地点Aから地点Bに流れるときの関係を表した式です。
\begin{aligned}\rho g H_{A}+\dfrac{1}{2} \rho v_{A}^{2}+P_{A}=\rho g H_{B}+\dfrac{1}{2} \rho v_{B}^{2}+P_{B}\end{aligned}
それぞれの項は、下記の単位体積当たりのエネルギーを示しています。
第1項:位置エネルギー
第2項:運動エネルギー
第3項:圧力エネルギー
1,2項は高校物理(力学)で勉強した通りです。3項は覚えた方が良いです。(熱力学で同様の法則があるかもしれませんが)
ある地点AがBより高いとすると、地点Bで発生する速度は地点Aより大きいと考えられます。よって、運動エネルギーもAより大きいはずですが、その分位置エネルギーが小さくなります。
このようなイメージで、等号=が成立するわけですね。
なお、この想定は流路に圧力損失が無い想定です。(理想流体)
ベルヌーイの法則の導出 (解答例)
(i)(ii)円柱の表示方法
(i)円柱にかかる重力は\(mg\)で、\(\theta\)でベクトル分解すると、座標軸\(s\)上の成分は
\begin{aligned}\boldsymbol{|ds|}=mg \cos \theta\end{aligned}
(ii)質量\(m\)について、密度*体積の関係から
\begin{aligned}m=\rho dA ds\end{aligned}
\(\cos\theta=\dfrac{dH}{ds}\)より
\begin{aligned}\rho dA ds g \dfrac{dH}{ds}\end{aligned}
(iii)円柱にかかる座標軸方向の圧力
(iii)円柱にかかる合計の力\(F\)は
\begin{aligned}F=PdA-P’dA-\rho g dA dS\cos\theta\end{aligned}
地点間の圧力差\(dP\)は、\(dP=P’-P ⇔ (P-P’)dA=-dPdA\)より
\begin{aligned}F=-dPdA-\rho g dA ds \cos\theta\end{aligned}
(iv)円柱の運動方程式
\(F=m\dfrac{dv}{ds}\)を、(iii)の結果に代入し
\begin{aligned}m\dfrac{dv}{ds}=-dPdA-\rho g dA ds \cos\theta\end{aligned}
これに、(ii)の結果を代入し
\begin{aligned}\rho dA ds v \dfrac{dv}{ds}=-dPdA-\rho g dA ds \dfrac{dH}{ds} \\ \rho v \dfrac{dv}{ds}+\dfrac{dP}{ds}+\rho g \dfrac{dH}{ds}=0\end{aligned}
(v)ベルヌーイの法則の導出
(iv)の結果から\(ds\)を削除し、各項の微小パラメータで積分することで
問題文で与えられたベルヌーイの定理
\begin{aligned}\rho g H+\dfrac{1}{2}\rho v^{2}+P=const\end{aligned}
を得る。
ベルヌーイの法則の使い方の一例
以前の記事で、吸出し菅を使用したときにキャビテーションが発生するとお話ししました。
これを、ベルヌーイの法則を用いて説明してみます。
吸出し高さを\(H_{1}\)、ランナ出口の圧力を\(P_{1}\)、流速を\(v_{1}\)
吸出し菅の出口深さを\(H_{2}\)、圧力を\(P_{2}\)、流速を\(v_{2}\)、吸出菅内の損失水頭を\(H_{d}\)とすればベルヌーイの定理より
\begin{aligned}H_{1}+H_{2}+\dfrac{P_{1}}{\rho g}+\dfrac{v_{1}^{2}}{2g}=\dfrac{P_{2}}{\rho g}+\dfrac{v_{2}^{2}}{2g}+H_{g}\end{aligned}
大気圧を\(P_{a}\)とすれば、
\begin{aligned}\dfrac{P_{2}}{\rho g}=H_{2}+\dfrac{P_{a}}{\rho g}\end{aligned}
だから、
\begin{aligned}\dfrac{P_{1}}{\rho g}=\dfrac{P_{a}}{\rho g}-H_{1}-\left(\dfrac{v_{1}^{2}}{2g}-\dfrac{v_{2}^{2}}{2g}-H_{d}\right)\end{aligned}
吸出し菅の形状より、出口の断面積が大きいため、\(v_{2}\)は小さくなる。
このとき、左辺の\(P_{2}\)も小さくなる。
よって、回復水頭が発生するが、キャビテーションのリスクが高まる。
参考文献
電力発生工学:加藤政一・中野茂・西江嘉晁・桑江良明(共著)、第2章