院試全体
出題科目が多く、範囲も広いです。かと言って、簡単な問題ばかりではなく、大問の最後には考察を求められる場合が多いです。いかにも、学部受験の東北大物理を思い出させる問題構成です。
- 全て必須科目
- 数学 9:00-10:00 4題 60分
- 力学、電磁気学 10:30-12:30 1科目2題ずつ 120分
- 量子力学、熱統計力学 13:30-15:30 1科目2題ずつ 120分
- 英語 16:00-16:30 30分
大学受験をしているのか!と言いたいほど一日中試験問題を解きます。工学部の院試では、2日に分かれるか、午前午後に分かれるとしても2タームくらいなのに対し、本院試は4タームです。集中力が切れないようにしましょう。
数学は、線型代数、複素関数、微分方程式、ベクトル解析から出題されます。非常に広範囲です。時間が1時間しか無いため、15分で1題解かなければならず、迷っている暇もありません。問題の難易度は標準的ですが、時間の制約的に筆者は難しいと考えます。
力学、電磁気学は、2題ずつ(計4題)を2時間で解きます。1題30分かけられるので、ある程度時間にゆとりがありますが、この2つの科目は勉強すべき内容が多いです。
力学は、質点系の運動だけでなく、剛体の運動や解析力学まで試験範囲に入ります。
電磁気学は、電場、磁場だけでなく、電磁場(マクスウェル方程式)まで試験範囲に入ります。ただし、真空中の振る舞いを考察することが主で、誘電体、磁性体のような境界条件を問われることはあまりないです。(工学部との違い)
各科目3講義分の範囲(6単位)があってもおかしくないボリュームです。問題の難易度は難しくは無いですが、手薄になる範囲もありますので、完答は難しいと考えます。
量子力学、熱統計力学も同じです。量子力学は、工学部で問われがちなポテンシャル問題だけではなく、スピン演算子や摂動に関する問題も出題されます。考察問題も多いため、勉強しないと完答は難しいです。熱統計力学に関しては、1題目が熱力学、2題目が統計力学になります。2題目は、固体物理学が出題されることもあり、6単位分あります。グランドポテンシャルなど、工学部の院試では出てこないような事項まで深堀されており、しっかりやり込むことが求められます。
飛びぬけて難しい問題があるわけではないですが、どの科目も必須回答であるため逃げられないです。時間的な制約から6~7割がボーダーラインでしょうか。(人気研究室を除く)
英語に関しては、問題が非開示なので省略します。ただ、試験時間が30分であることを見るに、深いことまで求められないと想像します。大学受験の英語力をもう一度取り戻すくらいの勉強で良いと思います。
対策に使える参考書、問題集
全体
最近2年分は以下の分野の出題がありました。
- 2024年8月実施問題:
- 数学
- ユニタリ行列と指数関数
- 単位円に沿った複素積分
- ポテンシャル関数の勾配、面積分
- フーリエ級数とパーシバルの式
- 力学
- 重心系の運動と角運動量保存則
- リング状に束縛された質点とラグランジアン
- 電磁気学
- 円筒導体から発生する電場と鏡像法
- ソレノイドコイルから発生する磁場と電磁誘導
- 量子力学
- 1次元調和振動子の電場を印可したときの振る舞い
- スピン演算子と交換関係、固有状態
- 熱統計力学
- 断熱過程、自由膨張過程における気体のエントロピー変化
- 高温極限、低温極限における熱容量の変化、図示
- 数学
- 2023年8月実施問題:
- 数学
- 一次変換と図形
- ガウス積分とテイラー展開
- 3階微分方程式の一般解
- 複素積分とジョルダンの定理
- 力学
- ポテンシャル問題と質点の軌跡
- 剛体棒の振子運動
- 電磁気学
- 円筒導体から発生する電場、磁場、インダクタンス
- 電磁波の波数の導出。透過係数。
- 量子力学
- 無限井戸型ポテンシャルの波動関数、エネルギー固有値
- スピン演算子の交換関係
- 熱統計力学
- ギブスの自由エネルギーとマクスウェル方程式の導出。近似
- ショットキー接合のバンド構造。電場をかけた時の仕事関数の変化
- 数学
たった2年分だけですが、これだけ長くなります。
数学は、線型代数は必ず出題されます。固有値を求めることが多いですので、必ず取りましょう。複素関数についても出題頻度が高いですが、他大学の院試でも見たことあるような問題が多いです。ここも取りたいですが、留数などの計算ミスには気を付けましょう。微分方程式とベクトル解析は読めません。出題されない年があるからです。ただし、同じく標準的な出題内容ですので、次の章で紹介する問題集のA問題は解いた方が良いと思います。
力学は、大学受験で見たことあるような設定が多いですね。ポテンシャル関数の勾配を取る問題は大学特有ですが、結局力$F$を求めて運動方程式にすることが多いです。その後の微分方程式を解く数学の勉強も兼ねて、得点源にしましょう。
ただし、剛体の力学については、慣性モーメントとトルクに関する運動方程式を考える必要があります。ここは完全に大学範囲ですので、モーメントの向きの正負を間違えないようにしましょう。
電磁気学は、円筒導体からの出題が多いですね。ガウスの法則を同じく円筒に適用するだけですが、問題の後半は鏡像法に発展させたり、電気回路として電流を求めたりもします。類題経験があれば苦労しないですが、様々な角度から問われます。大問2は、磁場か電磁場からの出題です。前者は、アンペールの法則とビオサバールの法則の使い方を、後者はマクスウェル方程式を微分方程式として解くことを徹底すれば、ある程度得点できるのではないでしょうか。
量子力学は、大問1に関してはとりつきやすいのではないのでしょうか。シュレーディンガー方程式を解き、波動関数を求める。二乗した値を規格化し、未知定数$C$を求める作業は、他大学の院試でもよく問われることです。ただし、後半の大問は電場をかけた時のエネルギー固有値の振る舞いを考えるなど、考察が含まれています。類題経験を通してイメージをつけましょう。
一方で、大問2に関しても演習が必要です。スピン固有の演算子に対する計算練習は言うまでも無く、角運動量の交換関係にも基づいた現象考察をする練習をしましょう。
熱統計力学は、大問1を取りたいですね。大学受験の物理(熱力学)と親和性の高い問題が多いです。エントロピーは新しい概念ですが、結局微分方程式を解くことに帰着します。出題パターンも各年度に通っているのでここは取りたいです。
大問2は、個人的には難しいと思います。確かに前半の問題は得点できるはずですが、統計力学と固体物理学で問われるのか予想が付かないからです。どうして同じ大問なのかよく分かりません。
教科書
数学
一般教養でご自身が使用している教科書をそのまま勉強した方が良いと考えます。ここでは、問題集の紹介のみ行います。
詳解と演習大学院入試問題 海老原 円 (著), 太田 雅人 (著)
他の記事でも紹介していますが、定番ですね。A問題は解いて、B問題は余裕があれば。程度のやり込みで問題無いと思います。ラプラス変換、確率統計の章はやらなくて問題無いです。
力学
古典力学は一般教養のため、これと言ったシラバス本はありません。質点系の運動に関しては、大学受験でも勉強したように、ニュートンの運動方程式を立てて、これを解くことに終始します。微分方程式の状態で解くことが高校との違いですが、大きく変わらないため、ここは得点源にしたいです。筆者がオススメする教科書を紹介します。
弱点克服 大学生の初等力学 改訂版 石川 裕 (著)
例題と合わせた解説の分量がちょうどよく、院試対策向きです。剛体の運動までカバーできています。学問として力学を学びたい場合は他の本もありますが、限られた院試対策の時間である観点から上記をオススメします。
解析力学については、難しいですね。あまり、例題が充実している教科書がありません。強いて言えば、下記の本になります。
解析力学・量子論 第2版 須藤 靖 (著) シラバス対象本筆頭
将来の量子力学への道筋も含め丁寧に説明されています。院試全体を見通すうえでは最適ですが、学部4年生になった方が院試対策に読む本かと言うと、、、「う~ん」という感じです。下記の本の方が問題演習できますので、参考にしてみてください。
よく分かる解析力学 前野 昌弘 (著) (シラバス対象本)
電磁気学
電磁気学 (物理テキストシリーズ 4) 砂川 重信 (著) (シラバス対象本)
理学部としての院試対策に大変適任です。今までは、工学部の院試対策記事を紹介してきたため、誘電体磁性体に関する説明が少ない本書を紹介してきませんでしたが、今回の場合そのデメリットが無くなります。本書と下記問題演習をやり込むことで、電磁気学の院試対策は十分でしょう。
詳解電磁気学演習 後藤 憲一 (著), 山崎 修一郎 (編集)
理学部の院試でも重要度は変わりません。本書に掲載されている問題がよく出題されます。真空中の電場、磁場の章だけで問題無いので確認することをオススメします。
量子力学
シラバスで紹介されている参考書(猪木慶治、川合光「量子力学I」「量子力学Ⅱ」)は品薄なのか値が張ります。本ブログでは、下記の本を紹介します。
量子力学(I)(Ⅱ)(新装版) 小出 昭一郎 (著)
(ベタですが)理学部学生ほど参照すべきだと思います。確かに、説明が主で例題演習は少なめではあります。しかし、大問の最後に出題される考察問題を攻略する上で、量子空間のイメージをつけることはマストだと思います。そのためのうってつけの本書になります。
演習書に関しては、下記2点をオススメします。
1冊目は、教科書に続いての紹介です。問題集もありますので、図書館で一読の上、ご購入することをオススメします。問題数が多いので、院試問題の傾向に合う分をセレクトして解くだけでも十分です。
2冊目は、1冊目よりは難易度が落ちますが、大変分かりやすいです。初学者向けです。誤植が多いなどの欠点はありますが、個人的には記号の添え字レベルのもので気になるほどではありません。
熱統計力学・物性
熱統計力学
“熱力学”までの範囲であれば市販の参考書が大変豊富になっていますが、統計力学まで含めると書籍が限られてきます。シラバス本のうち、安価な教科書は下記になります。
熱学・統計力学(原島鮮、培風館)(シラバス対象本)
昔の本で、中古価格が安いので購入してみて良いと思います。ただ、演習問題の解答が略解しか無いことにご注意下さい。(最近は、AIに解かせることで解決できそうですが)
特に、第2~4章、第10,11章を一読することをオススメします。
熱物理学 チャーレス キッテル (著), ハーバート クレーマー (著), 山下 次郎 (翻訳)
私としては、キッテルの教科書をオススメします。固体物理学の書籍に関しては値が張りますが、熱物理学に関しては中古品を買えば安価に入手できます。ただし、統計力学に関する説明は潤沢ですが、熱力学に関する説明は最小限であることにご注意ください。
特に、第2~4、第6~9章をオススメします。
大学演習熱学・統計力学(久保亮五、裳華房)(シラバス対象本)
演習書としては下記をオススメします。少し値が張りますが、掲載問題数が多く、網羅的に対策できます。第1~3章、第5~8章をオススメします。
固体物理学
下記の教科書がシラバスで紹介されています。王道ですが、分量が多いため学部4年生から読むには難しいと考えます。
キッテル 固体物理学(上下) (シラバス対象本)
値が張ることもきになります。必ず問われる分野でも無いですので、勉強するにしても辞書的な使い方をした方が良いです。問題演習を中心に行い、出題された大問に関わる章を読みましょう。
私個人としては、下記の本をオススメします。
初歩から学ぶ固体物理学 (KS物理専門書) 矢口裕之 (著) (オススメ)
コンパクトでまとまっていますので院試向きです。加えて、前半の章は量子力学の復習などが続きますので、後半から読み進める形で構わないです。オススメは第8章(固体の熱振動)からです。
最後に
非常に長丁場の記事となりましたが、自分に合った本を見つけることから始めた方が良いです。そのために、自身が所属する大学図書館の活用をオススメします。

