A級/B級/C級 電力増幅器(電力増幅回路)の性質

電力増幅器(回路)とは

その名の通り、小さな信号を大きくする目的で使用するものです。

家庭で使用する増幅器で代表的なものは、受信アンテナです。基地局から受信した信号を増幅し、処理を行います。

図1.電力増幅器の概要

この場合、受信する電力のオーダーが小さいため、入力電力に対する出力電力の利得のみを考えれば良いです。

一方で、基地局側から送信する信号はどうでしょうか。

多数の家庭に信号を送るため、大電力が必要になります。

このとき、直流電源から入力する電力を効率よく出力電力に変換する必要があります。

実現するための電力増幅回路について、いくつか種類があります。本記事ではA級、B級、C級を扱います。

補足:増幅回路の注意点 (直流電源の意味)

増幅回路は何もないところから入力電源(交流)を増幅するわけでは無いです。

あくまでも外部電源から電力を借りて、そのエネルギーで入力信号を増幅します。

だから、本記事のように大電力の増幅を考えるときは、入力電源に対する効率を無視できないのです。

詳しくは、こちらの記事で説明しています。

微小信号等価回路では直流電源が出てこないので意識から抜けてしまいますが、注意が必要です。

電力増幅器(電力増幅回路)の種類

トランジスタの\(V_{CE}-I_{c}\)特性のバイアス点に応じてA級、B級、C級増幅器があります。

例として、下記の回路を考えます。

回路方程式は、

\begin{aligned}V_{cc}=R_{L}I_{c}+V_{CE} \\ I_{c}=\dfrac{V_{cc}}{R_{L}}-\dfrac{V_{CE}}{R_{L}}\end{aligned}

だから、\(V_{CE}-I_{c}\)特性は、単調減少な一次関数のグラフが書けるわけですね。

電力増幅器の種類と動作点
  • A級:コレクタ電流がピーク値の1/2の点 効率:低
  • B級:コレクタ電流が0になる点 効率:高
  • C級:B級よりコレクタ電流が深い点 効率:高

A級バイアス回路は、コレクタ電流がピーク値の1/2倍の点で設定します。

A級電力増幅回路

入力電力(直流電源)\(P_{in}\)に対する出力電力(交流成分)\(P_{o}\)の比で効率\(\eta\)を考えます。

(1)式より、コレクタ電流の最大値は\(I_{c}=\dfrac{V_{cc}}{R_{L}}\)です。

動作点は、ピーク電流の半分の地点ですので、\(I_{c}=\dfrac{V_{cc}}{2R_{L}}\)です。

よって、入力電力は下記で求められます。

\begin{aligned}P_{in}=V_{cc}I_{c}=\dfrac{V_{cc}^{2}}{2R_{L}}\end{aligned}

次に、出力電力(交流成分)についてです。

増幅対象の信号を、ピーク電流の半分の動作点を中心に\(v_{in}\)から供給します。

このため、交流電源からの電流(実効値)は、\(I_{ac}=\dfrac{V_{cc}}{2\sqrt{2}R_{L}}\)になります。

よって、出力電力\(P_{o}\)は

\begin{aligned} P_{o} = R_{L} I_{ac}^{2} = \dfrac{V_{cc}^{2}}{8 R_{L}} \end{aligned}になります。

以上より、効率は

\begin{aligned}\eta=\dfrac{P_{o}}{P_{in}}=\dfrac{1}{4}\end{aligned}

25%であることが分かりました。

後述するB級増幅回路に対し、低い増幅率になります。75%はジュール熱として消費するため、放熱も考えたシステム設計にする必要があります。

また、交流電圧を印可していなくともコレクタ電流が流れるため、実際に信号を増幅していなくとも電力を消費します。

B級増幅回路

先の図1のように、コレクタ電流を流れない点を動作点とします。

この場合、交流電圧を印可しないときにはコレクタ電流が流れません。よって、A級増幅回路に対し、効率が良くなると考えられます。

しかし、交流電圧の振幅が正のとき、電源電圧以上の値がかかるため、この部分は増幅できなくなります。

よって、極性が逆のPNP型トランジスタを並列に接続し、それぞれのトランジスタから正負の電圧を出力します。

上記の回路は、コンプリメンタリ増幅回路/相補型増幅回路/プッシュプル増幅回路と呼ばれています。

この時の入力電力\(P_{in}\)を考えます。

半波波形の平均電流のため、コレクタ電流\(I_{c}\)は

\begin{aligned}I_{c}=\dfrac{1}{2\pi}\int ^{\pi }_{0}I{c}d\theta=\dfrac{1}{2\pi}\int ^{\pi }_{0}\frac{V_{cc}}{R_{L}}d\theta=\frac{V_{cc}}{\pi R_{L}}\end{aligned}

これを、もう一方の半波に対しても考えるので、求める入力電力は

\begin{aligned}P_{in}=2I_{c}V_{cc}=\dfrac{V_{cc}^{2}}{\pi R_{L}}\end{aligned}

続いて、出力電力についても考える。

コレクタ電流\(I_{ac}=\dfrac{V_{cc}}{R_{L}}\)の実効値を考えると、\(I_{ac}=\dfrac{V_{cc}}{\sqrt{2}R_{L}}\)

よって、出力電力は

\begin{aligned}P_{o}=I_{ac}^{2}R_{L}=\dfrac{V_{cc}^{2}}{2R_{L}}\end{aligned}

以上より、求める効率は

\begin{aligned}\eta=\dfrac{P_{o}}{P_{in}}=\dfrac{\pi}{4}\end{aligned}

78.5%になることが分かりました。A級増幅回路に対し、3倍以上高い効率になります。

これだけ見ると、全部B級増幅回路にして良いと考えられます。しかし、欠点もあります。

B級増幅回路の欠点

製造誤差(物バラ)の観点で、特性の揃ったnpn、pnpトランジスタを一つの回路に組み込むことが困難です。

よって、入力信号(交流)が0になったとき、もう一方のMOSFETと出力が切り替わらない可能性があります。

これをクロスオーバーひずみと言います。

C級増幅回路

B級増幅回路より、動作点\(V_{CE}\)を大きくした回路を言います。

コレクタ電流\(I_{c}\)はグラフ上では負の領域に入りますが、実際は逆向きに流れないです。よって、B点以上の領域ならば、コレクタ電流は0Aで電力増幅ができます。

入力信号の上側のみを増幅するため、B級増幅回路に対し効率がさらに良くなります。

一方で、出力電圧は不連続で、パルス状の波形になります。

受信側では、パルス波形が来ることを見越した受信フィルタを準備する必要があります。

最後に

電力増幅回路は、回路計算ではなく論述で出題されることが多いです。神戸大で出題されたことがありますので、同大学を志望する方は是非モノにしてください。

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