下図のように、極板間距離$d$の平行平板間に誘電体(比誘電率$\varepsilon_{s}=5)$がつまっているモデルを考える。誘電体内部には、長方形上のボイド(空隙)が存在している。電極間の幅を$d=10 \mathrm{cm}$、空隙の幅は$0.1\mathrm{mm}$、空気中の放電開始電界を$30 [\mathrm{kV/cm}]$とし、下記の問いに答えよ。
問1:誘電体内部に電場$E_{1}$が発生しているとき、ボイド内の電場$E_{2}$を求めよ。
問2:ボイド内で放電が発生する時、ボイド間にかかっている電圧$V_c$および電極間にかかる電圧$V_{c1}$を求めよ。また、ボイドが無い場合の電極間にかかる電圧$V_{c2}$に対して何倍変わるか。

はじめに
以前の記事では、パッシェンの法則を元に、気体の火花開始電圧(絶縁破壊電圧)を議論しました。圧力が小さすぎず、ある程度の量を持っている時、絶縁破壊電圧が最小値を取ることを話しました。
ですが、実際は理想的な気体分布(等方的な絶縁性能)にはならないです。ケーブルの場合は、CVケーブルを初めそもそも気体で絶縁されているわけでもありません。特に、水トリーやボイドによる局所的な絶縁劣化は学術書でよく紹介される話です。そこで、本記事では、ボイドをモデルとし、なるべく現実に近い形で絶縁破壊電圧を考察していきます。
まず、ケーブルの劣化要因と診断方法についてまとめ、その上で問題を解いていきます。
ケーブルの劣化要因
水トリーとボイドは、下記の現象を指しており、試験に出やすいです。
- 水トリー:浸水、湿気等により、絶縁内に水分が侵入し、導電性経路を形成、進展する現象
- 空隙:シースの腐食、外傷、熱伸縮による絶縁体内部に空隙が発生する現象
水トリーについて、イメージはしやすいですが、進展することもよく問われます。これは、水トリーに電場が集中し、その力により樹枝状に劣化が進行していくことに起因します。
空隙(ボイド)についても覚えておきましょう。製造誤差で発生する。のイメージでも良いかもしれませんが、製造後も熱などの条件で発生する可能性があります。
他、長年使用することによる絶縁体の変質(≒絶縁性能の劣化)、針状電極先端に高電圧が発生した時に、樹枝状の絶縁破壊が生じる電気トリーなども劣化現象として存在します。
ケーブルの絶縁診断
CVケーブル
- 損失電流法:交流電流を印可し、課電成分と同位相の電流成分を抽出。その中に含まれる高調波電流量にて劣化の程度を判断。
- 残留電荷法:水トリー部に蓄積された電荷の放出状況で劣化を判断
- 耐電圧法:CVケーブルのスクリーニングを目的に実施する。試験電圧を印可し、絶縁性能の基準に対する満足有無を測定する。
- 直流漏れ電流測定法:漏れ電流の量により、劣化の程度を判断
- 部分放電測定:絶縁物中のボイドや絶縁物表面で発生する部分放電の程度を測定する。
損失電流法について、誘電正接の考え方に基づいています。理想的な絶縁体の場合は容量性の電流(≒損失無し)の成分しか発生しませんが、絶縁性能が低下すると印加電圧と同位相の電流(=損失分)が発生します。この分を測定し、劣化の程度を判断する手法になります。水トリー劣化に対して診断可能です。
残留電荷法について、ケーブルに電圧を印可し停止した後、絶縁体内部に残留電荷が残ります。この後ケーブルを短絡すると、残留電流として流れ、その程度により劣化の状況を判断します。
直流漏れ電流測定法について、ケーブルの導体とシース間に一定の直流電圧を印可し、漏れ電流の量を測定します。
部分放電測定法について、具体的には一定時間内に発生する放電パルス数や電圧により、劣化の性状を判断します。
OFケーブル
絶縁油によりケーブルの絶縁性能を担保していることから、油中のガス分析や、絶縁油の酸価度試験を主に行います。
他、CVケーブルと共通で、絶縁破壊電圧を測定する方法もあります。これは、採取した絶縁油に高電圧を印可し、絶縁破壊した電圧を測定する方法です。
解答例
問1:ボイド内の電圧
誘電体中の電束密度$D_{1}$と、ボイド中の電束密度$D_{2}$を考える。電場と誘電率の積であることに注目し
\begin{cases}D_{1}=\varepsilon_{o}\varepsilon_{s}E_{1} \\ D_{2}=\varepsilon_{o}E_{2}\end{cases}
電束密度は境界面に対して連続なので、$D_{1}=D_{2}$。上式を整理して
\begin{aligned}E_{2}&=\varepsilon_{s}E_{1} \\ &=5E_{1}\end{aligned}
比誘電率分、ボイド内の電場が強くなることが分かりました。
問2:ボイド間の電圧
放電開始電界が$30 [\mathrm{kV/cm}]$に対し、ボイドの空隙の幅は$0.1[\mathrm{mm}]$なので、単位に注意し、
\begin{aligned}V_c&=30*0.01 [\mathrm{kV}] \\ &=300[\mathrm{V}]\end{aligned}
問1より、誘電体内の電界$E_d$はボイド内の電圧の1/5倍のため、$E_d=6 [\mathrm{kV/cm}]$
これより、電極間にかかる電圧$V_{c1}$は、
\begin{aligned}V_{c1}&=300+6 [\mathrm{kV/cm}]*9.99[\mathrm{cm}] \\ &=60300[\mathrm{V}]\end{aligned}
次にボイドが無い場合に放電開始する場合、誘電体に電界$30 [\mathrm{kV/cm}]$がかかっていると考えて良く、その時の電極間にかかる電圧は
\begin{aligned}V_{c2}&=30 [\mathrm{kV/cm}]*10[\mathrm{cm}] \\ &= 300000[\mathrm{V}]\end{aligned}
$V_{c1},V_{c2}$を比較すると、ボイドが発生すると絶縁耐力が1/5倍になることが分かる。
最後に
本内容は、論説問題として電験でよく出題されます。計算で説明することはあまり無いですが、電磁気学の知識を中心に説明できることを覚えておくと良いです。

