半導体内の電気伝導(ドリフト電流、拡散電流)

電気伝導の項目

ドリフト電流拡散電流に大別されます。

ドリフト電流は、半導体内の電場によって流れる電流です。

拡散電流は、半導体内の電子の濃度勾配によって流れる電流です。

下記にて、詳しく解説していきます。

ドリフト電流の特性

電子のドリフト移動度をμn、電場をEとすると、電子の平均速度vdは下記の式で表すことができます。

(1)vd=μnE

ただし、現実的には散乱が発生します。これは、結晶格子内を電子が移動する際、下記の影響により電子の速度が変化する事象です。

散乱の発生形態
  1. 結晶格子の振動により、原子の作る電場が局所的に変動する
  2. イオン化した不純物が半導体内に存在し、そのクーロン力により速度変動する
  3. 半導体内の中性不純物により、電場が局所的に変動する

特に2.が重要です。これは、次節で説明します。

散乱と散乱の間の距離を平均自由行程λ、平均速度をv平均時間をτとすると、以下の運動方程式で表すことができます。

(2)mdvdt=eEmvτ

これをラプラス変換を利用し、解くことで以下の式を導出できます。

(3)msV(s)=eE5mτV(s)V(s)=eEm1s(s+1τ)v(t)=emTE(1exp(tτ))

tの極限を考えると、

(4)v=emτE

これを(1)式を比較すると、電子移動度は下記の関係で表される。

(5)μ=emτ

電流密度をJとすると、下記の式で表すことができる。

(6)J=env=enμE=σE

ただし、σは導電率で、下記の式で表すことができる。

(7)σ=enμ

電子についての関係を示してきましたが、正孔についても同じ関係式が成立します。

よって、正孔分も加味すると(7)式は下記のように表すことができます。

(8)σ=e(nμn+pμp)

ただし、μnは電子移動度、μpは正孔移動度です。

不純物濃度と移動度の関係

前節の説明は、散乱が理想的だった場合の話です。

実際は、半導体内の不純物の濃度によって散乱の程度も変わります。温度にもよりますが、半導体内の移動度は下記の関係になります。

低温領域では、熱の影響が小さいため、不純物から発生する電場の変化による散乱の影響を受けます。

高温領域では、熱による格子振動の散乱が支配的になります。よって、不純物による散乱はあまり関係なくなります。

拡散電流の特性

定義から、電子、正孔の拡散電流は以下の式で表すことができます。

(9){Jn=eDndndxJp=eDpdpdx

ただし、Dnは電子の拡散係数、Dpは正孔の拡散係数を示します。微分項で濃度を微分していることから、拡散電流を表していることが分かります。

電子密度をマクスウェル・ボルツマン分布により、下記の式でおきます。

(10)n(x)=Cexp(eV(x)kT)

ただし、Cは定数です。上式をxで微分すると以下の式が成立します。

(11)dndx=CekTexp(eV(x)kT)dV(x)dx=ekTn(x)E

熱平衡状態のときドリフト電流と拡散電流は等しいので、下記の関係が成立します。

(12)en(x)μnE=eDndndx=ekTn(x)E

ホール効果を利用した移動度の測定

前章まで、電子の移動度について説明してきました。本節では、実験的に移動度を求める方法を説明します。

ホール効果とは

半導体に電流、磁場をかけると半導体内で電場が発生する現象です。これを利用し、半導体の物性値を計測しています。

半導体の+x方向に電流を流し、-z方向に磁場を印可する場合を考えます。

電子は-x方向に流れるため、ローレンツ力が+y方向に働きます。これにより、電子が+y方向に帯電するため、電場が+y方向に発生します。

電場により発生する電位差をVHとし、ローレンツ力とクーロン力が等しいとき、下記の関係が成立します。

(13)evB=eVHd

左辺がローレンツ力を示し、右辺がクーロン力を示します。なお、電場は一定です。

これを簡単化すると

(14)I=envwd

(15)VH=IBenW=RHIBW

σ=enμであるため、結局電子移動度は下記の式で表すことができます。

(16)μH=σen

最後に

院試では、本記事の導出過程を問われることがあります。文章の誘導に乗って進めることがありますので、出題意図も理解しながら解き進めるようにしましょう。

参考文献

半導体デバイス 松波 弘之 (著), 吉本 昌弘 (著) 第2章

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