はじめに
行列の2次形式に関する問題の続きです。前回は、与えられた2次形式の関数を楕円形に変換しました。
本記事では、\(x^{2}+y^{2}+z^{2}=1\)の条件の下、関数f(x,y,z)が取りうる最大、最大値について考察します。最後に、楕円形が囲む領域を関数に代入した時の面積を求めます。
本記事で覚えたいこと
座標系\((x,y,z)→(x’,y’,z’)\)の変換行列
\begin{eqnarray}\begin{pmatrix} x \\ y \\ z \end{pmatrix}=T\begin{pmatrix} x’ \\ y’ \\ z’ \end{pmatrix}\end{eqnarray}を用いることがキーポイントになります。
最大、最小問題
- 標準形に変換後の関数\(f(x’,y’,z’)\)で最大、最小を与える\((x’,y’,z’)\)を求める。
- (3)式に求めた\((x’,y’,z’)\)を代入。これを解くことで、\((x,y,z)\)領域に逆変換する。
最大、最小値を求めやすい座標系\((x’,y’,z’)\)で値を求め、それを変換行列を用いて元の座標系に戻す方針で答えを求めます。
領域の面積(体積)を求める問題
- 楕円体の体積の公式(\(V=\frac{4}{3}πabc)\)を用いて、座標変換後の関数\(f(x’,y’,z’)\)の体積を求める
- 座標変換前後の基本ベクトル(x,x’,y,y’,z,z’)で、長さが変わっているものがあるかチェック。
- 正規直交基底の場合は基本ベクトルの長さが変わらないので、1.の算出結果が座標変換前の関数に対しても使える。
1.の公式を知っているかが、この問題を解く可能性を左右します。
媒介変数表示などを使えば知っていなくても解けるはずですが、当然計算量が多くなります。
そこで、変換行列を使用すると楕円になることが予想できます。これを利用することで、楽に計算することができます。
解答例
(1)最大、最小値問題
\(x^{2}+y^{2}+z^{2}=1\)が、座標変換後の\((x’,y’,z’)\)で取りうる値の関係式を考える。
問題で与えられた変換行列\(T\)より、以下の関係式を導ける。
\begin{cases}x=-\dfrac{x’}{\sqrt{2}}-\dfrac{y’}{\sqrt{6}}+\dfrac{z’}{\sqrt{3}}\\ y=0+\dfrac{2}{\sqrt{6}}y’+\dfrac{z’}{\sqrt{3}}\\ z=\dfrac{x’}{\sqrt{2}}-\dfrac{y’}{\sqrt{6}}+\dfrac{z’}{\sqrt{3}}\end{cases}
これを\(x^{2}+y^{2}+z^{2}=1\)に代入すると、\(x’^{2}+y^{2}+z’^{2}=1\)となり、元の関係式と同じになる。
※正規直交基底なので、変換後も同じ関係式になります。不安ならば、検算してみると良いかもしれません。
\(x’^{2}+y’^{2}=1-z’^{2}を\)(2)式に代入すると、以下のようになる。
\begin{align}(2)&=2(1-z’^{2})+5z’^{2} \\ &= 2+3z’^{2} \end{align}
最大、最小を求めるには、\(z’\)の取りうる値に注意すれば良く
\((x’,y’,z’)=(0,0,±1) ⇔ (x,y,z)=(±\frac{1}{√3},±\frac{1}{√3},±\frac{1}{√3})\)のとき、最大値5
\((x’,y’,z’)=(\cos\theta,\sin\theta,0) ⇔ x+y+z=0 )\)のとき、最小値2
※x+y+z=0の関係を導くには、(x’,y’,z’)それぞれの値を(4)式に代入すればよいです。
(2)面積(体積の計算問題)
前節により、\(x^{2}+y^{2}+z^{2}≦1\)を座標変換すると、同じく\(x’^{2}+y’^{2}+z^{2}≦1\)になることが分かる。よって、座標変換後の変数\(x’,y’,z’\)の取りうる領域は、変換前と変わらない。
また、変換前後の基本ベクトル(x,x’,y,y’,z,z’)は両方正規直交基底であるため、変換後の関数で求めた体積は、変換前の関数の体積と一致する。
変換後の関数は\(f(x’,y’,z’)=2x^2+2y^{2}+5z^{2}\)であるため、これを楕円体の公式に適用できる形に変形する。
\(\dfrac{x^{2}}{\left( \frac{1}{\sqrt{2}}\right) ^{2}}+\dfrac{y^{2}}{\left( \frac{1}{\sqrt{2}}\right) ^{2}}+\dfrac{z^{2}}{\left( \frac{1}{\sqrt{5}}\right) ^{2}}\leqq 1 \)で表せるため、求める体積\(V\)は
\begin{align}V=\dfrac{4}{3} \pi \dfrac{1}{\sqrt{2}} \dfrac{1}{\sqrt{2}} \dfrac{1}{\sqrt{5}}=\frac{2 \pi}{3√5}\end{align}
ただし、楕円体の取る範囲は、\((\frac{-1}{√2}≦x’≦\frac{-1}{√2}),(\frac{-1}{√2}≦y’≦\frac{-1}{√2}),(\frac{-1}{√5}≦z’≦\frac{-1}{√5}\))
すなわち、\(x’^{2}+y’^{2}+z’^{2}≦1\)の取りうる範囲\(\ (-1≦x≦1),(-1≦y≦1),(-1≦z≦1) \)の範囲内である。
最後に
京都大学が、本問の類題を院試で出題したことがあります。他、東北大学で2次形式の標準形変換の出題をしたことがあります。
両者の大学を受験される方は、是非チェックしてください。
私が知りうる限りで解説したつもりですが、語弊がある内容もあるかもしれません。その際は、お問い合わせにてご指摘くださると幸いです。