下記図は同期発電機の界磁電流(\I_{f}\)に対する動作特性である。\(V_{o}\)と\(I_{s}\)は、発電機出力端の開放電圧と短絡電流をそれぞれ表している。
(1)\(I_{f}\)の増加に対して、\(V_{o}\)が飽和する傾向になる理由を説明しなさい。
神戸大学大学院 電気電子工学専攻 電力工学 2020より抜粋
(2)\(I_{f}\)の増加に対して、\(V_{o}\)が飽和傾向にも関わらず、\(I_{s}\)が直線的に変化する理由を説明しなさい。
同期発電機とは
発電所でよく使われる電気機器です。
磁束の中を一定速度で回転する導体が通過することで誘導起電力が発生。これを電気エネルギーとして取り出す機器になっています。
なお、スペースの都合上、導体は直線に動かし続けることはできません。そのため、円のように回転します。
同期発電機の構造
界磁巻線を備える外枠と、起電力を発生させる電機子巻線で構成されています。
いずれかの2通りで発電することができます。それぞれの発電方法は、下記(i)(ii)でよく説明されています。
(i)回転界磁型
電機子は固定し、界磁側を回転させて、発電する方法になります。
大容量の発電所であるほど、電機子を回転させるより、界磁側を回転させる方がトルクが小さく、エネルギー負荷が小さいです。
また、電機子は固定であることから絶縁がしやすいです。
このような利点から、最もよく用いられる構成になっています。
(ii)回転電機子型
回転界磁型と逆です。界磁側は固定し、電機子を回転させて、発電する方法になります。
小容量の発電所ならば、発電機が小型となり、電機子側のトルクが小さくなります。
この利点を生かし、上記の場面でよく用いられます。
同期発電機の特性
電機子反作用
回転界磁系の同期発電機を使用し、電機子を回転し発電を開始すると、電機子電流から磁界が発生します。
固定子の界磁に対し外乱を起こし、起電力が低下するなどの現象が発生します。
これを電機子反作用と言います。
回転磁界(電機子電流)の向きにより、界磁に及ぼす影響は異なります。(下記3種類あります。)
ここでは、ベクトル図を用いて考えていきます。
前提
まず、固定子からの界磁と誘導起電力の位相差を考えます。
まず、ファラデー電磁誘導の法則を使用し
\begin{aligned}V=-\dfrac{d\phi(t)}{dt}\end{aligned}
簡単化のため、固定子からの界磁により電機子を貫く磁束を\(\phi(t)=\phi_{o}e^{j\omega t}\)とフェーザ表示で考えます。
このとき、(1)式は
\begin{aligned}V=-j \omega\phi(t)\end{aligned}
となり、誘導起電力は、界磁に対してπ/2遅れることが分かります。
発生した誘導起電力により、負荷に電機子電流が流れますが、負荷のインピーダンス次第で位相がさらに変わります。
下記では、電機子電流の位相ごとに影響を見ていきます。なお、電機子電流によらず誘導起電力は、界磁に対してπ/2遅れることは変わらないです。
電機子電流と誘導起電力が同じ位相のとき (交さ磁化作用)
電機子電流の位相は、誘導起電力と同じく界磁に対してπ/2遅れます。
よって、電機子電流による磁界は、固定子による界磁に対しπ/2遅れます。
最終的な磁界は、電機子電流による界磁分位相がずれることになります。
この現象を、交さ磁化作用(または横軸反作用)と言います。
電機子電流の位相が誘導起電力に対しπ/2遅れのとき (減磁作用)
誘導起電力に対し、さらにπ/2遅れることになることから、電機子電流による磁界は、固定子による界磁に対してπ/2+π/2=π遅れることになります。
ベクトルとして逆向きになりますので、界磁を弱める方向に働きます。
これを、減磁作用と言います。
電機子電流の位相が誘導起電力に対しπ/2進みのとき (増磁作用)
誘導起電力で遅れた位相π/2を補償する方向に電機子電流が流れます。
よって、固定子による界磁と電機子電流による界磁は同じ位相(π/2-π/2=0)。位相差0になります。
ベクトルとして同じ向きになりますので、界磁を強める方向に働きます。
これを、増磁作用と言います。
補足
一般の参考書では、同期発電機の図を書いて本現象を説明していることが多いです。しかし、同期発電機の構成が複雑なため、完全に理解しきることが難しいように感じます。
そこで、今回は電磁気学の知見から本現象を説明しました。
図(物理)で分かりづらい場合は、式で数学的に理解する癖をつけた方が良いかもしれません。
無負荷飽和曲線
同期発電機を定格速度で運転している状況下で、界磁電流を大きくしたときに発生する端子電圧の関係を言います。(負荷は無いため、2次側は開放)
誘導起電力\(v\)を、\(v=BIl\)で考えると、界磁電流を大きくしたとき、磁束密度\(B\)が増加します。
磁束密度は電流の1乗に比例することから、界磁電流が小さい領域では端子電圧は線形的に増加します。
しかし、界磁電流が大きくなるにつれて、電機子(鉄心)内を貫く磁束が飽和します。
こうなると、誘導起電力は飽和します。
三相短絡曲線
同期発電機を定格速度で運転している状況下で、界磁電流を大きくしたときに発生する短絡電流の関係を言います。
2次側端子電圧の関係を考えたとき、無負荷飽和曲線では、負荷は開放した前提での議論でした。しかし、三相短絡曲線は、短絡した前提で考えます。
この場合、界磁電流を大きくしても、短絡電流は飽和せずに線形的に増加し続けます。
これは、電機子反作用によって、電機子から界磁を打ち消すように起磁力が発生するためです。(減磁作用)
界磁電流に比例して減磁作用も発生するため、鉄心の磁束飽和が発生せず、線形的に増加し続けるわけですね。
短絡比
前節で説明した無負荷飽和曲線と三相短絡曲線の比を言います。
下記の式で表すことができます。
\begin{aligned}K=\dfrac{I_{s}}{I_{n}}\end{aligned}
短絡比の大小による影響
短絡比が大きい場合、界磁電流が大きく、短絡電流が小さくなる側に働きます。
よって、電機子からの起磁力が小さく、電機子反作用の影響を低減できます。(利点)
また、百分率同期インピーダンスも小さくなるため、電圧降下が小さくなります。(利点)
一方で、大きな界磁となるため、固定子を大きくすることが必要です。よって、発電機が大型化し、コストがかかります。(欠点)
短絡比が小さい場合、界磁電流が小さく、短絡電流が大きくなる側に働きます。
電機子反作用、電圧降下が大きくなる欠点はありますが、発電機は小型化できます。(利点)
解答例
前段の説明に答えはありますが、復習のため記載します。
開放電圧が飽和する理由
無負荷飽和曲線の節を参照
短絡電流が増加し続ける理由
三相短絡曲線の節を参照
最後に
本記事には、同期発電機の非常に大事なポイントが詰まっています。
院試だけでなく、電験でも毎年出題される内容になっています。
電力系の仕事に就かれる方は完ぺきに理解できるまで勉強しましょう。それくらい重要です。