ドリフト電流、拡散電流とアインシュタインの関係式の導出

図1は平衡状態にある半導体pn接合のエネルギーバンド図を示している。\(x\)軸は接合界面に垂直であり、伝導帯底および価電子帯頂上における電子のエネルギーはそれぞれ\(E_{c}(x),E_{v}(x)\)で表される。半導体の禁制帯幅\(E_{G}\)、伝導帯の有効状態密度\(N_{c}\)および価電子帯の有効状態密度\(N_{V}\)は位置によらず一定である。温度は\(T\)、フェルミ準位は\(E_{F}\)、ボルツマン定数は\(k_{B}\)、素電荷は\(q\)である。以下の問いに答えよ。

(1)位置\(x\)における電子密度\(n(x)\)を表す式を示せ。

半導体中における電子の拡散係数を\(D_{e}\)、ドリフト移動度を\(\mu_{e}\)とする。

(2)位置\(x\)において電子の拡散に伴う電流密度を求めよ。
(3)位置\(x\)において電子のドリフトに伴う電流密度を求めよ。
(4)\(D_{e}\)と\(\mu_{e}\)の間に成り立つ関係式を求めよ。

東北大学 電気情報系院試 2020/3月 電子工学より抜粋 一部の問題を省略

拡散電流とドリフト電流の違い

過去の記事で詳しく解説していますが、ここでも簡潔に説明します。

拡散電流とは

キャリア濃度に分布があるとき、その濃度差を埋めるように流れる電流です。電流値は、濃度勾配に比例し、下記の式で表すことができます。

\begin{aligned}I_{D}=-qD_{e}\dfrac{dn(x)}{dx}\end{aligned}

ドリフト電流とは

電場によって電子が動く現象を意味しています。電磁気学でよくある荷電粒子の運動の半導体バージョンですね。

下記の式で表すことができます。

\begin{aligned}I_{\mu}=qn(x)\mu_{e}E\end{aligned}

電界とドリフト電流の関係

上式だけ見ると、無制限に電場\(E\)を大きくすれば、それだけ移動度が上がるように見えます。

しかし、実際はそうなりません。

電場を大きくすると、電子の速度は大きくなりますが、その分半導体結晶中の格子と衝突する時間が短くなります。

よって、電場を大きくすると、衝突によりエネルギー損失が大きくなるので、思ったより速度は大きくなりません。

解答例

(1)電子密度

過去の記事より

\begin{aligned}n(x)=N_{c}\exp \left( -\dfrac{E_{c}\left( x\right) -E_{f}}{k_{B}T}\right)\end{aligned}

※初見だったとしても、上記の式は暗記しておかなければなりません。伝導帯の底にフェルミ準位を引いてexpを取る。Ncを乗する。と覚えましょう。

(2)拡散電流の式

前章より、拡散電流密度は(1)式で表すことができる。これを変形し

\begin{aligned}i_{D}=-qD_{e}\dfrac{dn\left( x\right) }{dx}=-qD_{e}\dfrac{dV(x) }{dx}\dfrac{dn\left( x\right) }{dV \left( x\right) }\end{aligned}

(3)式について、\(E_{c}(x)=qV_{c},E_{f}=qV_{f}(x)\)なので

\begin{aligned}i_{D}=-\dfrac{q^{2} D_{e}}{k_{B}T}n(x)\dfrac{dV(x)}{dx}\end{aligned}

(3)ドリフト電流の式

(2)式より

\begin{aligned}i_{\mu}=q\mu_{e}n(x)E\end{aligned}

\(E=-\dfrac{dV(x)}{dx}\)をこれに代入して

\begin{aligned}i_{\mu}=-q\mu_{e}n(x)\dfrac{dV(x)}{dx}\end{aligned}

(4)拡散電流とドリフト電流から導かれる関係式

平衡状態のとき、(5)=(7)なので

\begin{aligned}\dfrac{qD_{e}}{k_{B}T}=\mu_{e} \\ D_{e}=\dfrac{\mu_{e}k_{B}T}{q}\end{aligned}

これをアインシュタインの関係式と言います。

最後に

本問は、意外と院試で出題されたりします。平衡状態では、拡散電流とドリフト電流が等しいことがキーですので、与えられた文字を駆使して計算練習していきましょう。

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