はじめに
バイポーラトランジスタは、MOSFETと並ぶ増幅素子です。動作原理は過去の記事でまとめていますが、平たく言えばベースとコレクタに電流を流し、エミッタから増幅した電流が出力される素子になっています。
MOSFETは電圧制御素子に対して、トランジスタは電流制御素子です。
前回の記事では、これが低域周波数帯では利得が下がっているように見えました。それでも、コンデンサを入れる理由について考えていきます。
解答例
(1)電流帰還バイアス回路の安定性
エミッタの下端にある抵抗\(R_{E}\)がキーになります。
外乱により、トランジスタに入力するコレクタ電流\(I_{c}\)が大きくなったときを考えます。
ベース電流を\(I_{B}\)、エミッタ電流を\(I_{E}\)とすると、下記の関係になる。
\begin{aligned}I_{E}=I_{B}+I_{c}\end{aligned}
これより、下記の理由で安定になります。
- コレクタ電流\(I_{c}\)が大きくなった時、エミッタ電流\(I_{E}\)も大きくなる。
- このとき、エミッタ下端の抵抗\(R_{E}\)の電圧降下\(\delta V\)が大きくなる。
- 入力電圧\(v_{i}\)は一定なので、ベースエミッタ間の電圧\(V_{BE}\)が小さくなる。
- ベース電流\(I_{B}\)が小さくなる。
- \begin{aligned}I_{E}=I_{B}+I_{c}\end{aligned}より、\(I_{E}\)が小さくなるフィードバックがかかり、安定になる。
(2)コンデンサ\(C_{c}\)の役割
\(C_{c}\)は、結合コンデンサと言います。入力電圧源の近傍に置きます。
これにより、下記の役割があります。
1.について、コンデンサの性質の通りです。
2.について、コンデンサを置くことで、他の段から直流成分の信号が来ても、カットすることができます。
(3)コンデンサ\(C_{E}\)の役割
\(C_{E}\)は、バイパスコンデンサと言います。\(R_{E}\)と並列に接地します。電圧利得を大きくする役割があります。
(1)により、エミッタ下端に抵抗\(R_{E}\)を設定すると外乱に対して安定であることが分かりました。
しかし、良いことだけではありません。電圧利得が低下してしまう課題があります。
下記の微小信号等価回路を用いて、理由を考えていきます。
\(R_{E}\)を設定しないときの入力電圧\(v_{i1}\)と、\(R_{E}\)を設定するときの\(v_{i2}\)は下記になります。
\begin{cases}v_{i1}=h_{ie}i_{B} \\ v_{i2}=h_{ie}i_{B}+R_{E}(1+h_{fe})i_{B}\end{cases}
電圧利得は、\(K=\dfrac{v_{o}}{v_{i}}\)で表されます。\(R_{E}\)を入れると分母が\(v_{i1}→v_{i2}\)と大きくなるため、確かに利得が低下してしまいます。
この課題を解決するため、バイパスコンデンサ\(C_{E}\)を\(R_{E}\)を設定します。
このとき、\(R_{E}\)と\(C_{E}\)の合成インピーダンス\(Z_{E}\)は下記になります。
\begin{aligned}Z_{E}=\dfrac{R_{E}}{1+j \omega C_{E}R_{E}}\end{aligned}
\(Z_{E}<R_{E}\)のため、(3)の第2式の\(R_{E}\)を\(Z_{E}\)に置き換えると、\(v_{i2}\)は小さくなります。
よって、利得\(K\)を大きくすることができます。
補足
数式を用いて厳密に議論しましたが、院試本番は下記のような定性的な説明にしても良いかもしれません。
最後に
トランジスタの説明問題は、院試本番で1問だけ問われることがあります。ここで差を付けられるよう、知識として持っておきましょう。