電子回路の発振条件の考え方

はじめに

電気電子回路には、「発振」という現象が存在します。

電気回路の場合は、インピーダンスの虚部成分が0になる(角)周波数を発振条件と言われることが多いです。

このとき、電圧源と負荷(インピーダンス)の位相が一致しますので、力率=1になります。(有効電力を大きく取り出せる)

一方で、電子回路の場合はどのようなイメージをお持ちでしょうか。

一般的に、入力電圧が0でも出力電圧が0にならない、増幅し続ける現象を指しています。

どういうことなのか、下記で考えていきましょう。

発振の原理

発振条件の定義とは、下記になります。

発振条件の定義

ループ利得AHが下記の2つの条件を満たすこと。

  • 発振条件:\(Re(AH)>1\) (振幅条件とも言われる。)
  • 周波数条件:\(Im(AH)=0\)

なぜ、このような条件になるのか、下記で説明していきます。

原理をモデルで理解する

下記のようなオペアンプを用いた正帰還回路を考えます。(Aはオペアンプの電圧利得で、Hは帰還率)

出力電圧\(v_{o}\)は、入力電圧\(v_{i}\)を用いて下記のように表されます。

\begin{aligned}v_{o}=A(v_{i}+Hv_{o})\end{aligned}

これより、回路全体の利得Kは下記になります。

\begin{aligned}K=\dfrac{v_{o}}{v_{i}}=\dfrac{A}{1-AH}\end{aligned}

上式が発振条件を考えるうえでのカギになります。

正帰還回路のループ利得が\(AH=1\)のとき、回路全体の利得は\(G=∞\)になります。

このとき、入力電圧を与えなくとも出力電圧\(v_{o}\)が存在します。これが発振回路の原理になります。

発振条件

前節の回路において、ループ利得\(AH>1\)である場合を考えます。

分かりやすくするため、\(A=3,H=0.5\)としましょう。

このとき、単位インパルス関数を\(t=0\)で入力します。出力電圧は、\(A=3\)より\(v_{o}=3\)になります。

次に、\(t=1\)のときを考えます。帰還率\(H=0.5\)で、入力電圧は0なので、\(t=0\)の出力電圧に帰還率をかけた\(3*0.5=1.5\)が増幅器に入ります。

増幅器でゲイン3倍するので、\(1.5*3=4.5V\)が出力されます。t=0と比較して1.5V増えました。

このように、時間を追うごとに出力電圧が増えていきます。これを発振条件と言います。(簡単化のために、t=0,1など離散的に時間を考えていますが、アナログ回路なら連続的に出力電圧が増えていきます。)

発振条件下でも、出力電圧は飽和する。

前節の説明により、発振条件が成立するとき出力電圧は増加していきます。

このまま行くと、出力電圧が発散しそうに見えますが、実際そうはなりません。増幅器(オペアンプ)にかかる電源電圧の制約からです。

院試では、省略されていることが多いですが、増幅器には外部電源が繋がっています。増幅器自体に電圧(エネルギー)を増加させる効果はありません。(エネルギー保存則の観点からもあり得ません。)

あくまでも、外部電源から供給する電圧の範囲で出力電圧を増幅させます。

ですので、外部電源電圧が10Vの場合、出力電圧は10Vで飽和します。

このとき、入力電圧と出力電圧が同じになるため、ループ利得\(AH=1\)になります。

このように、発振条件\(AH>1\)が成立していても最終的には\(AH=1\)となることから、発振条件を\(AH=1\)と初めから説明している専門書もあります。

ナイキスト線図から見る発振条件と周波数条件

(2)式より、系の利得Kが求まりました。これは、制御工学的には伝達関数\(G\)とみることもできます。

前章では、簡単化のため正帰還としていましたが、負帰還として、一巡伝達関数\(-AH\)を考えます。

これをナイキスト線図としてプロットすると、下記のような形になります。

制御の問題を解くときは、安定になる条件を求めることが殆どで実軸と交わる点が\(Re(AH)<-1\)となれば良かったです。

しかし、発振の場合は逆です。出力が発散しなければならないので、\(Re(AH)>-1\)となる必要があります。

前章で考えた\(AH>1\)と整合性が取れました。

なお、実軸に交わる点を考えるため、この時の虚部は0になります。回路が発振するためには、この条件も必要となるため

\begin{aligned}Im(AH)=0\end{aligned}

も同様に条件に存在します。(周波数条件)

これは、入力電圧と出力電圧が同じ位相であることを示しています。もし、位相がずれている場合、入力電圧と出力電圧が打ち消し合い、上手く増幅できないからですね。

問題を解いていく上での注意点

「発振条件」という言葉だけを聞くと、今までの説明からするに\(Re(AH)>1\)になる条件だけ求めると良いように感じます。

しかしながら、大学によっては周波数条件\(Im(AH)=0\)も合わせて「発振条件」と指導をされているところもあります。(\(Re(AH)>1\)は、「振幅条件」と別の言葉に置き換えられています。)

院試問題を解いていく上では、安全のために周波数条件も求めておくと良いかもしれません。

最後に

本記事の考え方を軸に、発振回路の問題を解いていきます。コルピッツ発振回路やハートレー発振回路などがあります。

これらの発振条件、周波数条件を次回以降の記事で紹介していきます。

タイトルとURLをコピーしました