下記のように、コイル面がz軸に垂直になる2つの正方形コイルがある。コイル1は、正方形の中心が原点にあり、一つの辺の長さを
(1) 二つのコイルの間の相互インダクタンス
なお、辺1から距離

ノイマンの式とは

二つのコイルを、形状に沿ってそれぞれ線積分し係数をかけると、その結果が相互インダクタンスになる。という関係を表した式です。
コイル1をかたどる線路を
※もし、積分路
ノイマンの式の導出
導出の起点は、磁束と磁束密度の関係式
です。面積分となっていますが、ベクトルポテンシャルと磁束密度の関係およびストークスの定理を利用し、線積分に帰着させます。
ベクトルポテンシャル
これを(4)式に代入することで、(1)式を導出できます。
ノイマンの式を利用する利点

以前の記事でも話したように、一方のコイル1に電流
- 線積分で済むため、計算時間が少ない。
地味に見えて大変な効果です。鎖交磁束を考える時、コイル2の内面をいくつも微小区間分割(メッシュ取り)をする必要があり、メッシュごとに鎖交する磁場の算出⇒面積を乗算する。を繰り返さなければなりません。おまけに、面積を分割する以上、線を分割する行為に対して、どうしても分割数が多くなってしまいます。
(以前の記事では、コイル2が微小円形で、鎖交する磁場が一定である特別な例だったので手計算で求めることができました。しかし、現実にはそんなコイルは殆ど無いです。コイルが大型化するほど、一定磁場と近似できなくなります。)
一方で、ノイマンの式の場合は、磁場を発生させる仮定は不要です。ただ単にコイルの形状に沿って線積分すれば良く、計算回数が大幅に低減できます。
インダクタンスの解釈
ここでもう一度インダクタンスの式を見てみましょう。(再掲)
何か気づいたことはありませんか?特に、電流が流れる導体の材質に関するパラメータが見当たりません。
ここで、インダクタンスに導体の材質の素性は関係ないことが分かります。
実は、インダクタンスは形状で決まります。
(厳密には、コイル内の磁場の鎖交面積の中に磁性体を入れると透磁率

面積1の円を銅線、アルミニウム、絶縁線、どれを使用して作ろうがインダクタンスの大きさは変わりません。このため、磁束が鎖交したときに発生する誘導起電力も変わりません。
抵抗
このイメージから、インダクタンスも銅線が一番大きいんじゃないか?と考えてしまいそうですが、実際にそんなことはありません。抵抗とは分けて考えましょう。
導体がn個で構成されている系の全体のインダクタンス

上記のように、コイルが2つだけでなく、n個で構成されている系を考えましょう。この系全体のインダクタンスはどのようにして求まりますか。
結論ですが、下記になります。
導体1の自己インダクタンス、導体2~nの相互インダクタンス
導体2の自己インダクタンス、導体1,3~nの相互インダクタンス
・・・
導体nの自己インダクタンス、導体1~n-1の相互インダクタンス
全て足し算すれば良く、下記で表される。
導体間のインダクタンスの関係は、下記のように行列表示できますが、全部足せば良い。と言うことになります。詳しく見ていきましょう。
証明
そもそも全体のインダクタンスとは、“導体1~nを擁するコイルの自己インダクタンス”と捉えることができます。
このため、ノイマンの公式だと、下記の式で表現できます。
導体1~nの積分路を
上式を分解するとどうなるでしょうか?
右辺の第1項は、インダクタンス成分
さらに、
結局、冒頭でお見せしたインダクタンス行列の成分を全て足し算しているに過ぎないことが分かりました。
解答例
前章までの説明が本記事のメイントピックだったかもしれません。ただ、冒頭の問題形式で院試問題として実際に出題されたことがあります。しっかり理解していないと完答は厳しかったのではないでしょうか。
内容
コイル1の積分路
コイル1のA→Bへの積分路
まず、コイル2の積分路
次に、コイル2の積分路
コイル1との積分路と直交するので
これを(6)式に代入すると
最後に、コイル2との積分路
よって、コイル1の辺ABに対するコイル2の相互インダクタンス
コイル1の辺BC,CD,DAに関しても同じ結果になるので、求める相互インダクタンスは上式の結果を4倍すればよく
最後に
本問は、コイルを理解するために重要な知識が詰まっています。社会に出てからもインダクタンスの概念はよく出てきます。問題は解けなくても、“形状で決まる”ところだけは、是非とも覚えていただきたいです。