分極電荷の性質と様々な系における計算問題

分極電荷とは

誘電体内部で発生する正負に分かれた電荷の群を言います。

電場が誘電体にかかっている系を考えます。誘電体は、マクロで見れば電気的に中性です。しかし、電場によって内部の電子が吸い寄せられます。その結果、ミクロで見れば負の領域と正の領域が発生します。

この現象を分極と言い、分極により発生する電荷量を分極電荷と言います。

また、正負の分極電荷を結ぶベクトルを分極ベクトルと言います。分極ベクトルには下記の物理的意味があります。

これは、次節のように、分極ベクトルと分極電荷の面密度、体積密度の関係式を導くときに重要な考え方になります。

分極ベクトルと分極電荷密度の関係

上記の分極モデルを考えます。分極電荷密度$\rho$、底面積$S$、高さ$h$の直方体を考えます。正の分極電荷を持つ領域と、負の分極電荷を持つ領域が微小ベクトル$\mathit{\delta }$だけずれています。

この時、分極電荷は${\sigma }_p=\rho S\delta$になります。

双極子モーメントは、上式に電荷同士が離れている距離$h$をかけると良いので

$$\begin{array}{}\text{(1)}& \begin{array}{r}\rho S\delta ･h=\rho \delta \ast V\end{array}\end{array}$$

になります。(Vは体積で、V=Shです。)

よって、前節のCheckボックス１．の説明内容により、単位体積当たりの双極子モーメントの大きさは

$$\begin{array}{}\text{(2)}& \begin{array}{r}\mathit{P}=\rho \delta \end{array}\end{array}$$

次に、Checkボックス2により、ずれ$\delta$により表面から飛び出す正電荷の量は、分極ベクトル$\mathit{P}$に等しいので

$$\begin{array}{}\text{(3)}& \begin{array}{r}P={\sigma }_p\end{array}\end{array}$$

となります。(2)式と合わせると、$P={\sigma }_p=\rho \delta$となり、分極電荷の面密度、体積密度の間の関係式も導かれました。

分極電荷の求め方

電束密度と電場、分極ベクトルの関係式

$$\begin{array}{}\text{(4)}& \begin{array}{r}\mathit{D}={\epsilon }_o\mathit{E}+\mathit{P}\end{array}\end{array}$$

とガウスの法則を連立して求めることが多いです。

電束密度に関するガウスの法則では、真電荷の面密度を$\sigma$とすると、

$$\begin{array}{}\text{(5)}& \begin{array}{r}D=\sigma \end{array}\end{array}$$

$$\begin{array}{}\text{(6)}& \begin{array}{r}P={\sigma }_p\end{array}\end{array}$$

なる関係式が導かれます。問題で与えられている系ごとに電束密度、電場を考えて(4)式に代入すると分極電荷の面密度を求めることができます。

解答例

(1)平行平板コンデンサ

導体極板と誘電体にまたがる底面積Sの円筒を考える。ガウスの法則により

$$\begin{array}{}\text{(7)}& \begin{array}{r}DS=\sigma S\\ D=\sigma \end{array}\end{array}$$

誘電体内部の電場は、誘電率が$\epsilon$なので

$$\begin{array}{}\text{(8)}& \begin{array}{r}E={\displaystyle \frac{\sigma }{\epsilon }}\end{array}\end{array}$$

これを(4)式に代入すると

$$\begin{array}{}\text{(9)}& \begin{array}{r}\sigma ={\epsilon }_{o}E+{\sigma }_p\\ {\sigma }_p=\sigma (1-{\displaystyle \frac{{\epsilon }_o}{\epsilon }})\end{array}\end{array}$$

(2)無限平面誘電体

電束密度$D$について、真空中と誘電体中とで連続である。

$$\begin{array}{}\text{(10)}& \begin{array}{r}D={\epsilon }_o{E}_o=\epsilon E\end{array}\end{array}$$

これを変形して

$$\begin{array}{}\text{(11)}& \begin{array}{r}E={\displaystyle \frac{{\epsilon }_o}{\epsilon }}{E}_o\end{array}\end{array}$$

$P={\sigma }_p$より、以上の内容を(4)式に代入して

$$\begin{array}{}\text{(12)}& \begin{array}{rl}{\sigma }_p& ={\epsilon }_o(E_o-E)\\ & ={\displaystyle \frac{{\epsilon }_o}{\epsilon }}(\epsilon -{\epsilon }_o)E_o\end{array}\end{array}$$

(3)外部電場が平行にかかる場合

外部電場に誘起されて誘電分極は発生しないため、$P=0$

よって、分極電荷の面密度も0。

(4)誘電体中の導体球

電束密度$D$によるガウスの法則を考える。半径r>aの球を取ると、求める電束密度は

$$\begin{array}{}\text{(13)}& \begin{array}{r}D={\displaystyle \frac{Q}{4\pi r^2}}\end{array}\end{array}$$

これより、誘電体中の電場は、$D=\epsilon E$より

$$\begin{array}{}\text{(14)}& \begin{array}{r}E={\displaystyle \frac{Q}{4\pi \epsilon r^2}}\end{array}\end{array}$$

次に、誘電体と導体球との境界に現れる分極電荷を考える。r=aの範囲でガウスの法則を考えると、真電荷と分極電荷の影響を両方考えることができるため

$$\begin{array}{}\text{(15)}& \begin{array}{r}E={\displaystyle \frac{Q+Q_p}{4\pi a^2{\epsilon }_o}}\end{array}\end{array}$$

(14)式にr=aを代入し、(15)式に適用すると、求める分極電荷の量は

$$\begin{array}{}\text{(16)}& \begin{array}{r}{Q}_p=({\displaystyle \frac{{\epsilon }_o}{\epsilon }}-1)Q\end{array}\end{array}$$

最後に

分極電荷が発生する因果関係が分かっていないと、立式する際に誘電率${\epsilon }_o,\epsilon$の区別が付かずに苦戦することがあります。

是非、自分なりのイメージを付けて、迷いなく立式できるようにしましょう。