下記の図のように、x軸方向の長さが\(a\)、y軸方向の長さが\(b\)、中空領域がz軸方向に無限に続く矩形導波管が存在する。中空領域を角周波数\(\omega\)の電磁波が伝搬するときの現象を考える。下記の問いに答えよ。ただし、a>0,b>0とする。
(1)電場、磁場に関する波動方程式を記せ。
(2)電場成分を\(E_{z}=E_{z}(x,y)e^{i(\beta z – \omega t)}\)で仮定する。変数分離、境界条件を用いて一般解を求めよ。
(3)磁場成分を\(H_{z}=H_{z}(x,y)e^{i(\beta z – \omega t)}\)で仮定する。(2)と同じ手順で一般解を求めよ。
(4)TEモード、TMモードの遮断周波数を求めよ。また、遮断周波数の最小値はいくらか。
(5)TEモード、TMモードの分散曲線を図示せよ。(複数ある伝搬モードの一例で良い。)

導波管とは
電磁波の伝送に用いる伝送路です。電磁場を通信源として見て、情報伝送などに用いられます。
無限平面型(スラブ型)もありますが、院試では矩形型の伝送路で問われることが多いです。型枠は金属管で覆われており、境界条件により電場を通さないようにしています。よって、型枠内部の中空領域において電磁波が伝搬します。
電磁波は、任意の周波数で伝搬するのではなく、決まった規則の周波数で離散的に伝搬します。下記では、その理由について深堀していきます。
導出の手順
問題で与えた内容が、実は導出そのものになっています。
(1)波動方程式
導波管は、マクスウェル方程式から導出できる波動方程式
\begin{aligned}\Delta \boldsymbol{E}-\varepsilon_{o}\mu_{o}\dfrac{\partial ^{2}\boldsymbol{E}}{\partial t^{2}}=0\end{aligned}
\begin{aligned}\Delta \boldsymbol{H}-\varepsilon_{o}\mu_{o}\dfrac{\partial ^{2}\boldsymbol{H}}{\partial t^{2}}=0\end{aligned}
の解を仮定することで、振る舞いが分かります。
※導出については、こちらの記事で詳しく説明しています。リンク先の問(3)で電信方程式を導出していますが、真空中だと導電率が0なので、波動方程式になります。覚えていない方は是非ともご覧ください。
(2)電場成分の一般解
- 変数分離を仮定し、電場の振幅成分を変数x,yで分離する。
- 三角関数項が得られるため、境界条件を満たす整数解を離散的に求める。
導波管は、xy平面は導体で覆われています。このため、z方向にのみ伝搬する想定で、電場成分を下記のように立式します。(exp項内部が電磁波の伝搬成分を表す。)
\begin{aligned}E_{z}=E_{z}(x,y)e^{i(\beta z – \omega t)}\end{aligned}
これを式(1)に代入し、解くことで導波管内部の電場分布を知ることができます。

ただ、微分方程式のため、やみくもに手計算で解こうとすると闇にはまります。そこで、数学的なテクニックを用います。
微分方程式を解く際の常套手段である変数分離法を用い、電場成分\(E_{z}(x,y)\)を下記のように分解します。
\begin{aligned}E_{z}(x,y)=X(x)Y(y)\end{aligned}
これを(1)式に代入すると
\begin{aligned}Y(y)\dfrac{\partial^{2}}{\partial x^{2}}X(x)+X(x)\dfrac{\partial^{2}}{\partial x^{2}}Y(y)+\varepsilon_{o}\mu_{o}\omega^{2}=0\end{aligned}
\(k^{2}=\varepsilon_{o}\mu_{o}\omega^{2} , C_{y}=k^{2}-C_{x}\)とし、x,y項それぞれ
\begin{cases}\dfrac{\partial^{2}}{\partial x^{2}}X(x)=-C_{x}X \\ \dfrac{\partial^{2}}{\partial y^{2}}Y(y)=-C_{y}Y\end{cases}
と置きます。上記の第1式について、α>0の\(X(x)=e^{\alpha x}\)と置くと
\begin{aligned}\alpha^{2}=-C_{x} \\ \alpha=±i\sqrt{C_{x}}\end{aligned}
オイラーの式より、sin,cos項に分解できるため
\begin{aligned}X(x)=A\sin\sqrt{C_{x}}x+B\cos\sqrt{C_{x}}x\end{aligned}
と置ける。導波管の存在する領域では電場が0になる境界条件\(X(0)=X(a)=0\)を代入すると、\(B=0\)が導かれ、sin項についても\(\sqrt{C_{x}}a=m\pi\)になる。(mは自然数)
同様に、第2式についても、β>0の\(Y(y)=e^{\beta x}\)と置くことで、\(\beta=±i\sqrt{C_{y}}\)となり、一般解
\begin{aligned}Y(y)=C\sin\sqrt{C_{y}}x+D\cos\sqrt{C_{y}}x\end{aligned}
に対し、境界条件\(Y(0)=Y(b)=0\)を適用すると、
\begin{cases}D=0 \\ \sqrt{C_{x}}b=n\pi\end{cases}
以上より、求める電場成分は
\begin{aligned}E_{z}=AC\sin\dfrac{m\pi x}{a}\sin\dfrac{n\pi y}{b}\end{aligned}
※\(AC=E_{o}\)と置き、最終的な解とすることがあります。
n,mともに1以上で無いと電場成分が0になり、存在できないです。このような伝搬モードをTE波と言います。
(3)磁場成分の一般解
- (2)と同じく変数分離法を利用する。
- 磁場\(H\)の境界面に対する垂直成分は0になることを利用する。
(2)と同じです。ただし、境界条件だけ異なります。
金属管内部に電場は存在しないので、(2)ではそのまま\(E_{z}=0\)を考えれば良かったですが、磁場の場合は話が変わります。
磁場\(H\)の法線成分は連続にならないこと\(\dfrac{\partial H}{\partial x}=0\)に注目します。(y軸成分の境界条件についても同様に\(\dfrac{\partial H}{\partial y}=0\)の偏微分を考えます。
すると、(8)式、(9)式を立式するところまでは同じですが、これを一度偏微分することから、三角関数項がsinとcosで入れ替わります。
ですので、最終的な解は、電場では(11)式のようにsin項で表現していましたが、磁場の場合はcos項になります。
\begin{aligned}H_{z}=AC\cos\dfrac{m\pi x}{a}\cos\dfrac{n\pi y}{b}\end{aligned}
cos項ですので、mかnがどちらか0であったとしても、もう一方が1以上であれば\(H_{z}\)は0より大きい値となり、伝搬します。(TM波と言います。)
上記の点は電場と異なりますので、是非覚えておきましょう。
(4)遮断周波数
問(2)(3)の結果から波数を導き、そこから遮断周波数を算出します。
TE波の場合
(2)(3)の結果により、電場、磁場はsin cosの違いは有れど、\(\dfrac{m\pi}{a},\dfrac{n\pi}{b}\)の波数を持っています。
よって、二つの重ね合わせ
\begin{aligned}k_{mn}^{2}=\left (\dfrac{m \pi}{a} \right)^{2}+\left (\dfrac{m \pi}{b} \right)^{2}\end{aligned}
について、遮断周波数\(f_{c}=\dfrac{c k_{mn}}{2 \pi}\)は
\begin{aligned}f_{c}=\dfrac{c}{2 \pi}\sqrt{\left (\dfrac{m \pi}{a} \right)^{2}+\left (\dfrac{m \pi}{b} \right)^{2}}\end{aligned}
なお、\(c\)は光速(3.0*10^8 m/s)である。最小値は、m=n=1を考えれば良く
\begin{aligned}f_{min}=\dfrac{c}{2 \pi}\sqrt{\left (\dfrac{\pi}{a} \right)^{2}+\left (\dfrac{\pi}{b} \right)^{2}}\end{aligned}
TM波の場合
(3)より、mかnどちらか0でも問題無いです。a>bで、逆数を取るので、1/aの方が小さいです。
よって、cos(mπ/a)に関わる項にm=1を代入し、n=0とすると、最小値
\begin{aligned}f_{min}=\dfrac{c}{2 \pi}\dfrac{\pi}{a}\end{aligned}
を得られます。
(5)分散関係
量子力学的要素が強く、工学部の院試にはあまり出ないとは思いますが、参考に記載します。工学部ではあまり習わないかもしれませんが、分散関係とは下記の意味になります。
角周波数と波数の関係を意味する。\(\omega_{c}\)をカットオフ角周波数とすると
\(\omega=\sqrt{c^{2}k^{2}+\omega_{c}}\)
上記は、相対論で述べられている式になります。内容を図示すると、下記のようになります。

波数が小さい領域では、カットオフ角周波数に近づいているため、情報が伝搬しないことが分かります。
一方で、波数が大きくなるにつれて傾きが大きくなり、群速度\(\dfrac{d\omega}{dk}\)は光速に漸近します。よって、その分だけ情報を伝送できるようになります。
最後に
導波管は、上記のようなパターン問題での出題が非常に多いです。微分方程式の解き方を覚えているだけで得点することができます。是非、知識に入れておきましょう。