強誘電体の性質と分極形態の説明問題

問1:チタン酸バリウム( BaTiO3 )は室温近傍で強誘電性を有する.解答用紙に単位胞を
描き,これを用いて強誘電性を発現する理由を説明せよ.
問2: 交流電場下で用いられる誘電体は,印加電場の周波数によって,その比誘電率が変
化する.その理由を分極の種類に着目して説明せよ.

東北大学 マテリアル開発系 院試 r7 材料物性1より引用

強誘電体とは

電場をかけていない状態でも、電気双極子による分極(自発分極)が発生する物質を言います。以前の記事で、磁場をかけていなくとも磁性を有する物質を強磁性体である説明をしましたが、この電場バージョンになります。

強誘電体には、外部から応力をかけて巨視的分極が発生する圧電性や、温度を変化させると分極が変化する焦電性を持ちます。圧電性を応用し、超音波センサーを、焦電性を応用し、赤外線センサーなどの光学部品に応用されています。

自発分極 (問1の解答例)

典型例は、問に示したチタン酸バリウムです。

結晶格子の角の部分に$Ba^{2+}$イオンが、側面の部分に$O^{-2}$イオン、中心部分に$Ti^{4+}$イオンがあります。高温領域では、立方晶で、正負のイオンの重心が一致しているので分極は発生しません。しかし、室温領域では、立方晶から正方晶に相転移し、$Ba^{2+}$、$Ti^{4+}$がc軸方向にシフトした位置で安定します。+イオンの偏りが発生していることから、一方の場所では-イオンの偏りも発生します。これが、結晶格子全体に及ぶため、物質全体として分極が発生=自発分極になる。
以上の考察になります。

イオンによる分極が発生する誘電体を変位型と言い、永久電気双極子※の配向に基づく分極を秩序無秩序型と言います。後者の代表的な物質に、第二リン酸カリウム$KH_{2}PO_{4}$があります。

※外部から電場をかけていない状態でも存在する電気双極子を永久電気双極子と言います。後述する配向分極にも登場しますので、覚えておくと良いです。

P-Eヒステリシス

強磁性体の記事で、外部磁場$H$を掛けた時、磁化$M$の履歴にヒステリシスが生じていることを説明しました。(M-H曲線)

外部磁場が電場$E$に変わっただけで、強誘電体も同じ性質を持ちます。$P_{s}$が自発分極 $P_{r}$を残留分極、$P=0$を与える$E=E_{c}$を抗電界と言います。

キュリー温度

強誘電体には、自発分極を示す温度がある一方で、ある温度領域以上の場合、常誘電相となり自発分極が消失する温度があります。性質が入れ替わる温度を相転移温度(キュリー温度)と言います。

結晶の対称性の変化が不連続な場合を一次相転移、連続の場合を二次相転移と言います。

分極の種類 (問2の解答例)

電子分極

外部電界によって電子の偏りが発生し生じる分極を言います。原子核の周りを回る電子に対して起こり得る現象で、電子は光速で回っています。このため、分極は非常に高速で印加電場の周波数に追従できます。

イオン分極

結晶格子上の正負のイオンの変位に基づく分極を言います。格子状の分極であるため、電子の速度に対し遅いです。このため、高周波になると比誘電率への応答性が悪くなります。

配向分極

永久電気双極子を持つ分子に電場をかけて発生する分極を言います。電界方向に双極子が回転する時間が必要であるため、周波数に対する応答性は、3つの分極要因の中で最も遅いです。

結局、周波数が大きくなるにつれて、配向分極要因→イオン分極要因→電子分極要因の比誘電率と段階的に低下していきます。

最後に

誘電正接も試験範囲に入りますが、電験の記事で紹介しているため、今回は省略します。

タイトルとURLをコピーしました