増幅器と総合利得、総合雑音指数の求め方。低減方法

問題

下記の特性を持つ増幅器\(H_{1}\)、\(H_{2}\)がある。

\(H_{1}\)→\(H_{2}\)の順で接続したとき、\(H_{2}\)、\(H_{1}\)の順で接続したとき、の総合利得\(G\)、総合雑音指数\(H\)を求め、どちらの方が優れているか論じよ。

  • \(H_{1}\):利得\(G_{1}=4\)、雑音指数\(F_{1}=4\)
  • \(H_{2}\):利得\(G_{2}=5\)、雑音指数\(F_{2}=2\)

総合利得、総合雑音指数とは

複数の増幅器を直列で接続したとき、増幅器全体での利得を総合利得と言います。

また、増幅器の入力部分のSN比\(SN1=\frac{S_{in}}{N_{in}}\)、および出力部分のSN比\(SN2=\frac{S_{out}}{N_{out}}\)の比\begin{aligned}F=\dfrac{SN1}{SN2}\end{aligned}を総合雑音指数と言います。

総合利得の計算式

これは、各増幅器の利得をそのまま掛け合わせれば良いです。

N個の増幅器それぞれの利得を\(G_{i} (i=1,2, \cdots N)\)とすると、総合利得は

\begin{aligned}G=G_{1}G_{2} \cdots G_{N}\end{aligned}

この時、入力信号\(S_{in}\)の出力\(S_{N}\)は

\begin{aligned}S_{N}=\prod ^{N}_{i=1}G_{i}S_{in}\end{aligned}

で表すことができます。

総合雑音指数の計算式

前述の通り、雑音指数はSN比の関係を言います。

雑音自体を示すわけではありません。

よって、雑音\(N\)を計算できない限り、SN比を求めることができないです。

そのため、まずは増幅器全体で発生する雑音を求め、その次に総合雑音指数を求める方針で考えていきます。

発生する雑音の種類

まず、一つの増幅器に雑音\(N_{in}\)を入力したときの出力雑音\(N_{out}\)を考えます。

(1)式より、

\begin{aligned}F=\dfrac{S_{in}}{S_{out}}\dfrac{N_{out}}{N_{in}}=\dfrac{1}{G}\dfrac{N_{out}}{N_{in}}\end{aligned}

\begin{aligned}N_{out}=GFN_{in}=GN_{in}+G(F-1)N_{in}\end{aligned}

右辺の第1項、第2項は、それぞれ下記の意味を持ちます。

  • 第1項:元々増幅器に入力した雑音をそのまま増幅し、出力した雑音
  • 第2項:増幅器内部で発生する雑音

上記の考え方が非常に重要になります。

増幅器を直列接続したときの出力雑音

まず、2個の増幅器を直列に接続したときの全体の雑音を考えます。

(4)式の考え方を用いて、

\begin{aligned}N_{2}=G_{2}G_{1}F_{1}N_{in}+(F_{2}-1))N_{in}\end{aligned}

3個以上のときも同様にして、N個直列のとき、下記の式で表すことができます。

\begin{aligned}N_{N}=\left[1+(F_{1}-1)+\dfrac{F_{2}-1}{G_{1}}+\dfrac{F_{3}-1}{G_{1}G_{2}}+ \cdots + \dfrac{F_{N}-1}{G_{1}G_{2}\cdots G_{N}}\right]\prod ^{N}_{i=1}G_{i}\end{aligned}

これで、求める出力雑音を一般化することができました。

総合雑音指数の一般式

同じく、N個の増幅器を直列接続した場合を考えます。

(1)(3)(7)式を用いることで、下記のように表すことができます。

\begin{aligned}F_{N}=\left[F_{1}+\dfrac{F_{2}-1}{G_{1}}+\dfrac{F_{3}-1}{G_{1}G_{2}}+ \cdots + \dfrac{F_{N}-1}{G_{1}G_{2}\cdots G_{N}}\right]\end{aligned}

一般的に\(G_{i}>>1,G_{i}>>F_{i}\)であることから、1段目の増幅器の雑音指数の影響が支配的になります。

総合利得については、接続する順番で結果は変わらないため、複数の増幅器を多段接続するときは雑音指数の小さいものから1段目に接続していくと良いです。

解答例

\(H_{1}\)→\(H_{2}\)の順で接続したとき

(2)式、(8)式より

総合利得:\(G_{a}=4*5=20\)

総合雑音指数:\(F_{a}=4+\dfrac{2-1}{4}=\dfrac{17}{4}=4.2\)

\(H_{2}\)→\(H_{1}\)の順で接続したとき

前節と同様にして

総合利得:\(G_{b}=5*4=20\)

総合雑音指数:\(F_{b}=2+\dfrac{4-1}{5}=2.6\)

以上より、雑音指数の小さい\(H_{2}\)を1段目にした方が、増幅器全体の総合雑音指数を低減できる。

補足:雑音の発生形態

現実世界では、回路から発生する熱雑音が支配的です。

ボルツマン係数を\(k\)、温度を\(T\)、フィルタのバンド幅を\(B\)とすると

\begin{aligned}N_{in}=kTB\end{aligned}

で表すことができます。

増幅器の接続順番も大事ですが、温度が高くならないよう回路設計することも雑音指数を低減することに効果的です。

最後に

電子回路を勉強していると、利得の問題ばかりで雑音に関しては無視されることが多いです。

実際に回路設計していく上では無視できない課題です。

通信技術者だけでなく、電気系技術者も本問のような背景知識を大事にできると良いと思います。

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