変圧器の並行運転の条件と負荷分担の計算問題

問題

単相変圧器A,Bの並列運転を考える。A,Bそれぞれの定格出力と百分率インピーダンス降下は\(10kV,2\%\)、\(30kV,3\%\)とする。共通の負荷\(P\)をかけるとき、どちらの変圧器も定格出力の範囲内で並列運転をするとき、各変圧器の分担する容量の最大値\(P_{A},P_{B}\)はそれぞれいくらになるか。

変圧器の並行運転とは

読んで字のごとく、複数の変圧器で負荷に電力を供給する運転方法を言います。1台の変圧器では容量が足らない時に実施します。変圧器をただ複数接続するだけなのでは。とシンプルに思われるかもしれませんが、実際には下記の運転条件を満たす必要があります。

変圧器の並行運転条件

単相変圧器の並行運転条件
  1. 巻き数比、定格電圧が等しいこと。
  2. 一次側と二次側の極性が一致していること。
  3. インピーダンスが容量に逆比例すること。
  4. リアクタンスと巻線抵抗の比が等しいこと。

1.について、電圧に差が発生すると循環電流が流れ、変圧器の利用率が低下します。

2.について、極性が不一致の場合でも循環電流が流れます。短絡状態になるため、変圧器巻線が焼損する危険性があります。

3.について、逆比例の関係に無いと、各変圧器が容量に比例して負荷分担できなくなります。

4.について、比が不一致の場合、取り出せる電力が各変圧器の出力の和よりも小さくなります。

また、三相変圧器の場合は、上記1~4の条件に追加して下記5.6も必要になります。

三相変圧器の並行運転条件

 5.角変位が等しいこと
 6.相回転が等しいこと

5.角変位とは、一次と二次の線間電圧の位相差が等しいことを言います。不一致の場合は上記1.の事象が発生します。

6.は、三相交流の回転が逆になった場合、2.の事象が発生し、焼損のリスクがあります。

並行運転時の分担容量

変圧器Aと変圧器Bを並行運転することを考えます。それぞれの%Zを\(\%Z_{A},\%Z_{B}\)とすると、全体の負荷容量が\(P\)の場合、それぞれの変圧器で分担する負荷\(P_{A},P_{B}\)は下記になります。

\begin{cases}P_{A}=\dfrac{\%Z_{B}}{\%Z_{A}+\%Z_{B}}P \\ P_{B}=\dfrac{\%Z_{A}}{\%Z_{A}+\%Z_{B}}P\end{cases}

分子が左辺の添え字と逆になっていることに注意しましょう。これは、電流の分流の計算と同じ考え方で上記のようになっています。\(\%Z_{A}P_{A}=\%Z_{B}P_{B}\)

解答例

まず、変圧器Aの\(%Z_{A}\)の基準容量をBに合わせます。%Zは容量に比例し、変圧器Bは変圧器Aの容量の3倍なので

変圧器Aを30kVAで利用したときの\(\%Z’_{A}\)は

\begin{aligned}\%Z’_{A}=2*3=6\%\end{aligned}

これを(1)式に代入する。定格出力を超えない範囲で最大の負荷分担を考えるので、変圧器A,Bどちらかは定格出力と同じになる。変圧器A,Bのそれぞれの定格出力を与える共通の負荷容量の値に対しmin取りをすれば良いので

\begin{cases}10=\dfrac{3}{6+3}P \\ 30=\dfrac{6}{6+3}P\end{cases}

第1式の結果:30kVA、第2式の結果:45kVA より、第1式の結果を優先し、共通の負荷容量は\(P=30kVA\)だと分かる。

この時の\(P_{A},P_{B}\)について:\(P_{A}\)は上式の結果を流用すれば良く、\(P_{A}=10kVA\)

\(P_{B}\)については、(1)式に代入し

\begin{aligned}P_{B}&=\dfrac{6}{6+3}*30 \\ &=20kVA\end{aligned}

※\(P_{B}=P-P_{A}=30-10=20kVA\)の計算でも良いです。

\begin{cases}P_{A}=10kVA \\ P_{B}=20kVA\end{cases}

最後に

(1)式と、%Zの基準容量を合わせることさえ覚えておけば、電験三種レベルの問題ならば解くことが出来ると思います。知識問題の場合は、前段の説明部分(並列運転条件)を問われることが多いので、合わせて覚えておきましょう。

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