3相同期電動機に電圧\(\dot{V}\)の電源を接続し、電機子電流を\(\dot{I}\)、誘導起電力を\(\dot{E}\)、電源と誘導起電力の相差角を\(\phi\)、同期リアクタンスを\(X_{s}\)とする。下記の問いに答えよ。
(1)この電動機の出力\(S_{o}\)を\(V,E_{o},X_{s}\)を用いて表せ。なお、\(V\)は\(\dot{V}\)、\(E_{o}\)は\(\dot{E}\)の実効値を表す。
(2)相差角\(\phi\)は一定で、界磁電流\(I_{f}\)を変化させた。遅れ力率と進み力率それぞれの場合の\(\dot{V},\dot{E},\dot{I}\)のベクトル図を書け。なお、基準位相は電源\(\dot{V}\)に合わせるとする。
(3)同期電動機のV曲線を描き、遅れ力率と進み力率の範囲を明示せよ。
(4)同期電動機を無負荷で電力系統に接続するとき、調相機として使用できる。原理を説明せよ。
(5)停止している同期電動機が始動時にトルクを得るための方法として、回転子に施した制動巻線を用いる方法がある。この方法で始動トルクが得られる理由を説明せよ。

同期電動機とは
同期発電機を電動機として使用した機器になります。固定子巻線に三相交流を流し、発生した回転磁界により回転子が回転。トルクが発生し、仕事をする電気機器になります。
同期発電機の性質は、以前の記事で詳細に説明しています。一定の周波数で回転する電気機器であることに変わりありませんが、発電をする側なのか、電気エネルギーを消費する代わりに仕事をする負荷であるのかの違いで、”発電機”、”電動機”と呼び名が変わります。
同期電動機の性質
- 利点:
回転速度が一定で、高効率
励磁電流を調整することで力率制御が可能 - 欠点:
始動のための補助が必要
利点について、同期機であることから\(N=\frac{120f}{P}\)の同期速度で回転します。誘導電動機のように、同期速度からすべりが発生しないので、一定の回転数が要求される用途に適します。また、回転速度が磁界と完全に同期しているため、誘導電流が発生せず、効率が高くなります。
励磁電流を調整することで、誘導性負荷、容量性負荷として振る舞うこともできます。これにより、力率調整ができます。この運転をする同期機を同期調相機と呼び、問(4)で詳しく解説します。
半面、同期速度でしか回転できない都合がありますので、同期機自身での始動が難しいです。補助的な機器を用いて始動を行いますが、これは問(5)で解説します。同様に、発電側との周波数が合わない場合は脱調するので、使用には注意が必要です。
誘導電動機との使い分け
同期電動機は前章の利点から、一定速度で回転する大型負荷に使用されることが多いです。一方で、誘導電動機は始動の簡単さから小~中型クラスの負荷として使用されます。
それぞれ、良し悪しがあるので覚えておきましょう。
解答例
(1)出力\(S_{o}\)の算出
電動機に流れる電流\(\dot{I}\)は
\begin{aligned}\dot{I}=\dfrac{\dot{V}-\dot{E}}{jX_{s}}\end{aligned}
\begin{aligned}\overline{\dot{I}}&=\dfrac{\overline{\dot{V}}-\dot{E}}{-jX_{s}} \\ &=\dfrac{\dot{E}-\overline{\dot{V}}}{jX_{s}}\end{aligned}
複素電力の式\(S_{o}=\dot{E}\overline{\dot{I}}\)より
\begin{aligned}S_{o}&=E_{o}\left(\dfrac{\dot{E}-\overline{\dot{V}}}{jX_{s}}\right) \\ &=\dfrac{E_{o}^{2}-E_{o}V(\cos\phi-j\sin\phi)}{jX_{s}} \\ &=\dfrac{E_{o}V}{X_{s}}\sin \phi+j\dfrac{E_{o}V\cos\phi-E_{o}^{2}}{X_{s}}\end{aligned}
実部が有効電力\(P_{o}\)を意味し、
\begin{aligned}P_{o}=\dfrac{E_{o}V}{X_{s}}\sin \phi\end{aligned}
になります。
参考:ノーズカーブについて
機械出力の関係式\(P=\omega T\)より、1分あたりの回転速度を\(n\)とすると、トルクは下記のように表されます。
\begin{aligned}T&=\dfrac{P}{2 \pi (n/60)} \\ &=\dfrac{1}{2 \pi (n/60)}\dfrac{E_{o}V}{X_{s}}\end{aligned}
これを図示すると、下記のようになります。(ノーズカーブ)

トルクは、負荷角=π/2で最大になりますが、これより大きな値では減少します。このとき、負荷角を0に戻すことができなくなり、同期運転を継続できなくなります。
これを同期外れと言います。
(2)ベクトル図の作図
同期機にかける入力電圧\(V\)および出力\(P\)が一定の元、励磁電流を増減すると、力率が変化します。
- 電動機のとき:
励磁電流 小 ⇒ 遅れ力率
励磁電流 大 ⇒ 進み力率 - 発電機のとき:
励磁電流 小 ⇒ 進み力率
励磁電流 大 ⇒ 遅れ力率
これは、ベクトル図を用いて記載すると分かりやすいです。電動機を例に出します。
力率1のとき、誘導起電力\(E\)と入力電圧\(V\)の関係は直角三角形となりますが、界磁を弱めると誘導起電力も弱まります。その結果、電機子電流も遅れ、下向きの鈍角三角形のような形状になります。。界磁を強めた際は逆のことが発生します。

補足
なお、本事象は同期機が電動機として動作する場合について述べましたが、発電機としての動作の場合は逆になります。(電機子電流の向きが逆になるため。)
(3)(4)V曲線の図示、調相機の動作原理
(2)の関係を、横軸:界磁電流\(I_{f}\)、縦軸:電機子電流\(I\)で表すことを考えてみましょう。
力率1のときは、電機子電流が最小で、ずれ込むにつれて、同じ出力を出そうと、電機子電流の成分が増加します。結局、下記のようなV型状の曲線を取るので、一般的にV曲線と呼ばれています。(電験で結構出てくるので覚えておきましょう。)

この性質を利用し、同期電動機を電力系統の位相調整のために使用することがあります。(同期調相器と言います。)
(5)同期機の始動方法
問の内容は、「自己始動法」と言います。かご型誘導電動機と同じ構造です。制動巻線に始動電流を流し、回転子の回転速度が同期速度付近になったとき、界磁を励磁して始動します。
直流電動機や誘導電動機を始動用の電動機として接続する方法もあります。同じく、同期速度付近になるまで回転を補佐し、界磁を励磁したときに始動用電動機を切り離して始動完了します。
他、低周波始動法もあります。周波数を可変にできる電源を接続し、徐々に周波数、電源電圧を上げていき始動する方法です。
最後に
同期機は発電機として動作することが多いですが、電動機としても用途があります。また、電験でも問われることがあります。漏れなく覚えておきましょう。


