【過渡現象】電荷保存則を用いたコンデンサに溜まる電荷の計算問題

問題

下記のRC回路を考える。t<0ではスイッチが開放されている状態で、t=0のときにスイッチを閉じた。このとき、コンデンサC1,C3に蓄えられる電荷q1,q3の時間変化を求めよ。ただし、各コンデンサに蓄えられている初期電荷は0とする。

はじめに

皆様は本問を見て、どのような解答方針を考えたでしょうか。

t<0では、コンデンサに電荷が貯まっていないので、t=0のとき、コンデンサに溜まる電荷は0である初期条件を与えて、回路方程式を解くと考えた方が居るかもしれません。

しかし、実際にこの解き方をすると、ある一つの矛盾が発生することが後々分かります。正しい答えが導けないです。電荷保存則に基づいて初期条件を与えると、解決する様を見ていきましょう。

解答例

全体方針

過渡現象は、微分方程式で示された回路方程式を数学的に解いていく作業です。

回路素子は全て線形であるため、線形微分方程式となります。これの解き方として、下記の常套手段が有ります。

線形微分方程式の解き方

回路方程式を変数項定数項と左辺右辺に分けて下記1.2.の結果を足し合わせる。
3.で特殊解を決定する。

  1. 過渡項:定数項を0にし、変数x=Aeatなる一般解を仮定し、回路方程式に代入。過渡解を求める。
  2. 定常項:t→∞になったときの回路の状態によって、目的の変数の最終的な値を決定。
  3. t=0のときの初期条件を与え、未知数Aを求める。(特殊解)

過渡現象の計算は、このような作業で解くことができます。文字だけで説明しても難しいので、実際に下記で計算していきましょう。

回路方程式の立式

コンデンサC1,C3、抵抗R2,R4の添え字に対応する電流変数I1,I2,I3,I4を設定すると、電流則は

(1)I1+I2=I3+I4

I=dqdt=VR=QRCの関係を利用すると

(2)dq1dt+q1R2C1=dq3dt+q3R2C1

電圧則についても立式すると

(3)E=dq1dt+q3C3q3=C3EC3C1q1

式(3)を(2)に代入すると

(4)dq1dt+q1R2C1=C3C1dq1dt+1R4C3(C3EC3C1q1)

(5)ER4=(1+C3C1)dq1dt+(1R2C1+1R4C1)q1

過渡項の計算

上記は線形微分方程式のため、過渡解q1tを下記のように置く。

(6)q1t=Aeat

(5)式の左辺(定数項)を0と置くと、特性方程式

(7)0=a(1+C3C1)Aeat+(1R2C1+1R4C1)Aeat

(8)a=(1R2C1+1R4C1)(1+C3C1)=R2+R4R2R4(C1+C3)

定常項の計算、過渡項との足し合わせ

定常項をq1sとする。定常状態のとき、コンデンサに電流は流れず、抵抗R2,R4の分圧でC1にかかる電圧V1が決まる。

(9)V1=q1sC1=R2R2+R4E

(10)q1s=R2C1R2+R4E

以上より、コンデンサC1に溜まる電荷の時間変化は

(11)q1=q1s+q1t=R2C1R2+R4E+AeR2+R4R2R4(C1+C3)t

最後に、手順3.で特殊解を求めます。t=0のときの電荷の初期条件を与え、未知数Aを求める。これの与え方に注意が必要です。

手順3.よくある誤答

t=0のとき、初期電荷q1=0を(11)式に代入し

(12)A=R2C1R2+R4E

以上より、求める電荷q1の時間変化は

(13)q1=R2C1R2+R4E(1eR2+R4R2R4(C1+C3)t)

回路の対称性により、q3の時間変化は

(14)q1=R4C3R2+R4E(1eR2+R4R2R4(C1+C3)t)

以上が求める解である。

・・・どの部分が間違っているか、気づきましたでしょうか。

この解の与え方だと、t=+0のとき、コンデンサ部分に全く電圧がたたず、回路の電圧則を満たさないです。

コンデンサC1,C3で発生する電圧をそれぞれV1,V3とすると、V1+V3=Eである必要がありますが、上記の場合電荷が0です。V1=V3=0となり、矛盾します。

では、どうすれば良いのでしょうか?答えは、電荷の連続性(電荷保存則)に注目すれば良いです。

手順3.正しい解き方

電荷保存則により、スイッチを閉じる前後の電荷の関係は下記のようになる。

(15)q1(0)+q3(0)=q1(+0)+q3(+0)

スイッチを閉じた瞬間、電圧則により下記の関係が成立する。

(16)q1(+0)C1+q3(+0)C3=E

(17)q1(+0)=q3(+0)=C1C3C1+C3E

これを(11)式に代入すると

(18)A=(R4C3R2C1)C1(R2+R4)(C1+C3)

よって、求めるq1の時間変化は

(19)q1=R2C1R2+R4E+(R4C3R2C1)C1(R2+R4)(C1+C3)eR2+R4R2R4(C1+C3)t

回路の対称性により、q3の時間変化は

(20)q3=R4C3R2+R4E+(R2C1R4C3)C1(R2+R4)(C1+C3)eR2+R4R2R4(C1+C3)t

このとき、q1(+0)+q3(+0)=0が成立し、電荷保存則を満たす。また、スイッチを入れた直後、コンデンサC1,C3に非0の電圧が立ち、電圧則を満たす。(検算は各々でお願いします。)

最後に

本問は、ラプラス変換を用いる場合は計算が非常に複雑になります。普段はラプラス変換で解いている方も、電荷保存則を考える問題については微分方程式で解く練習をすることをオススメします。

参考文献

詳解電気回路演習(下) 大下眞二郎著 第4章 P182,183 問題【37】

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