はじめに
26年8月末になり、院試シーズンが終わろうとしています。過去の記事で日程を紹介しましたが、本日8/31が東大の電気系院試試験日となります。
情報科学研究科の一部の専攻を中心に9月開催の学科もあるかもしれませんが、大多数の方々にとってはお疲れ様と言える状況だと思います。合格発表は9月中旬まで待つかもしれませんが、倍率的にはこれから院に進む方が多いと思います。院試勉強、大変お疲れ様です。
本ブログでは、問題演習に重きを置いています。試験対策を中心に、社会に出てから役立つ周辺の知識もなるべく説明しているつもりですが、やっぱり付け焼き刃感が否めないです。解説を頑張ろうとしても、限界があり、かえって誤解を生んでしまう可能性を気にしています。
そこで、本記事では、電気系学生の中核科目である電磁気学を深く学びたい方へオススメする書籍を紹介します。問題演習よりも、学問を探求する観点で紹介します。10月から本格的に卒論の研究が初まると思いますが、それまでの間に一読してみると良いかもしれません。確かに、どの書籍も難しいですが、院試勉強でよく電磁気学を勉強した状態だと思います。よって、ついていく知識があると考えています。
おすすめする書籍
下記、いずれの書籍も日本を代表する名著です。企業で雇われの身である私が感想を述べることは大変失礼な部分もありますが、その分、学習を一通り終えた学生の目線で話していきたいと思います。
理論電磁気学 砂川 重信 (著)
よく紹介される専門書です。理学部向けの本で、誘電体、磁性体に関する説明が少ないことは気になりますが、真空中の電磁現象を中心に一段深い勉強ができます。
私としては、第1章(余裕があれば第2章と第3章)だけでも読むことをオススメします。なぜならば、電磁気学を俯瞰した説明がなされているからです。
第1章は、マクスウェル方程式から始まり、ガウスの法則やアンペールの法則など、電磁気学を代表する公式へ繋げる説明がなされています。大学の勉強では、いきなり電場の勉強から始まり、突然出て来たガウスの法則を暗記したら磁場の勉強が始まったりと、予め決められた結果を前提とした説明、パターン暗記になりがちです。しかし、本書では、マクスウェル方程式の式の意味をよく考察し、発展させた結果、ガウスの法則を初めとする電磁気学の諸定理が見つかる。と言う順序で説明がなされています。ゼロベースから考察されている感が良く、読んでいてしっくりきます。
第2章は、点電荷の運動を元に、座標変換、運動量(エネルギー)保存則が成立することなど、量子力学でよく見る説明がなされています。本ブログの読者は、電気電子系の中でも、電力(強電)系の分野を専攻する学生が最も多いはずで、彼らにとっては馴染みのない分野かもしれません。
それでも、私が第2章をオススメしている理由は、理系ならば一般教養として持っておきたい知識がつまっていると判断したからです。
実際、本書後半(8章以降)では相対論に関する話が詳しく出てきており、非常に難解です。ここまで勉強する必要は、電気系技術者として生きていくならば不要と考えています。一方、2章に関しては、高校物理でも学習するような基本的な物理量が、マクスウェル方程式から出発して現代物理学の枠組みにおいても表現可能なことを勉強できます。電磁気学は古典物理学の一つですが、この事実については万人が知っておくべきだと考えて、オススメします。
第3章は、工学部学生ならば是非読んでおきたいです。物体中の電磁場を勉強できます。これも、マクスウェル方程式を考察した結果、分極、磁化に関する現象を確認できます。中学高校で物理を勉強していると、誘電体に電場を当てると分極する。などの事象はアタリマエとして定着しがちで、特に疑うような機会も無いですが、本書を通して原則から学ぶことができます。
以上、全体としては450ページ超ありますが、ここで紹介した事柄(第1章~第3章)は、約80ページの説明で完結しています。院試をクリアした皆様ならば読み進めることができると確信していますので、是非とも手に取ってみてください。
電磁気学を考える 今井 功 (著)
表紙の通り、電磁気学を深く考えている書籍になります。当ブログも、難しい数式はなるべく用いずにイメージ中心に電磁気学の各記事を解説していますが、本書には遠く及びません。
特に、4~6章をオススメします。教科書では決まり文句のように書かれがちな双極子に対し、分極が周りの場のどのパラメータに対し影響するのか明快に書かれています。
電磁波についても、マクスウェル方程式を解いて数学的に決まったのではなく、空間上の場の振る舞いを中心に解説しています。平板コンデンサ問題についても、蓄えられた電荷から電場が発生し、V=Edを用いて解くなどの流れ作業ではなく、端部効果の影響についても論じながら、これも場のイメージを中心に説明しています。工学部生におすすめの一冊です。
ただし、中盤の相対性理論、終盤のテンソルに関しての概念は電気系の学生にとっては難解です。(情けない話、筆者も深く理解しているわけではありません。)
ここは、理論電磁気学と同じ感想になりますが、前半の章だけでも初めて見る内容が揃っています。そこだけでも覗いてみる価値は大いにあります。
電磁場とベクトル解析 (現代数学への入門) 深谷 賢治 (著)
3章構成となっており、1,2章はベクトル解析を詳しく掘り下げ、3章の電磁気学の諸公式の説明に繋げています。
上記2書に比べるとマイナーかもしれませんが、数学が好きな方にオススメです。ベクトル解析の観点から電磁気学を説明しており、厳密性を好む方にオススメします。”滑らかな閉曲線”、”曲面”、何となく答案用紙に書いてしまいそうな言葉ですが、本書では具体的な説明がなされています。
一般的な電磁気学の教科書は、証明を程々に定理の説明をし、次に進めていく構成が殆どです。一方で、本書ではそれぞれの電磁気学の諸定理に対し、数学的な証明を厳密に行っています。
とは言え、難解な数学の知識が多く、工学部学生にとっては1,2章の内容を全て理解できないかもしれません。(私もそうです。)
執筆者の方には申し訳ございませんが、率直に、電気系の学生にとっては3章から読み進めるでも良いと思っています。私たちのゴールは、電磁気学に対する知識を深めることです。ですので、自分の知らない概念、定理が出て来た際に1,2章を参照する読み方でも目的は概ね達成できると考えています。
数学に詳しいと推察される方のamazonレビューを拝見すると、3章の数学的な説明に厳密性が無い指摘もありました。本書のコンセプトを揺るがしかねないですが、それでもオススメする理由は、同様の思想で執筆された書籍は他に無いからです。全ての物理現象を余すことなく数式化することは、おそらく困難な中で本書を執筆すること自体凄いですし、逆を言えば一部の範囲以外において指摘事項は出ていません。
このような状況を踏まえ、本記事でオススメするに至りました。
最後に
本記事では、一般的な電磁気学の専門書の説明の順序が悪だというような書き方になってしまいましたが、実はそう思いません。むしろ、初学者にとってはその方が良いと考えています。
確かに、結果からスタートして辻褄が合うように説明している感は否めないですが、一方で直感的で分かりやすいです。誘電体に外部電場を当てると分極が発生する。静電気により力が発生する。高校を卒業した多くの理系が持っているであろうイメージを前提として、これを式に表すと云々になる。という説明が多いためです。
初学者の電磁気学の学習法は長年の議論ですが、私としては細かい数式は置いておいて、イメージから攻める従来の電磁気学参考書を用いて一周することをまずはオススメします。
その上で、本記事で紹介した専門書が、ゼロベースから電磁気学を考え直す機会として有用になると嬉しいです。
