東工大(東京科学大学) 電気電子系 院試の全体
電気数学、電磁気学、電気回路(電子回路有)、量子力学/物性基礎で構成されています。
試験時間は160分(9:30-12:10)です。英語はTOEICによる点数換算で、全科目合わせて合計950点満点になっています。
前回の記事では、電気数学について解説しました。本記事では、残りの科目を説明していきます。
各科目の概要
電磁気学
幅広く出題されます。3題構成のときもありますが、基本電場と磁場の1題ずつの出題です。電場は、コンデンサ、鏡像法に関する出題が多いです。磁場は、コイルに関する出題が多いです。レベルとしては普通ですが、問いの数が多く、時間との戦いになりがちです。
変動電流とマクスウェル方程式の関係について問われることがありますが、電磁波の性質自体については、あまり出題が無いです。
電気回路(電子回路)
フェーザ回路、過渡現象、MOSFETに関する出題が多いです。回路が複雑なことが多く、シンプルだったとしても入力波形に一癖加えられていたりと、個人的には難しい問いが多いと思います。ただ、前半の問いは労力少なくとれるため、完答は難しくとも、限られた時間にある程度まとめる作戦になると思います。
二端子対回路(分布定数回路込)、トランジスタ、オペアンプに関しては出題が少ないため、対策を後回しにして良いと思います。
量子力学/物性基礎
量子力学と半導体デバイス/物性の2題から構成されています。
量子力学については、階段ポテンシャル、井戸型ポテンシャルに関する問いが多いです。ただ、井戸の中に微小障壁\(\delta V\)を与えた場合の振る舞いを考えたりと、他大学には無い応用問題も多いです。また、計算量も多くなるため、付け焼刃の知識では対応できないことが多いです。
半導体デバイスについては、バンド構造、PN接合、物性など、多様な分野から出題されます。設問自体は量子力学に比べると典型的な問題が多いですが、計算量が多いことに変わり有りません。特に、物性が試験範囲に入っていることがネックになります。(他大学で出題されることがあまり無いため。)
試験範囲の観点から、選択問題は電気回路を選んだ方が無難だと思います。
目標
ライバルの出来にもよりますが、全体としては、6,7割欲しいセットですね。
試験対策に役立つ記事
電磁気学
電気回路
電子回路
※オペアンプ自体の出題は少ないですが、ラダー型回路に関して過去問で出題されたことがあります。その考え方を学ぶ点でオススメします。
半導体デバイス
対策に使える参考書、問題集
全体
最近5か年は以下の分野の出題がありました。
- 2023年:
- 電磁気学:
- 同軸ケーブルから発生する磁場とインダクタンス。電場と静電容量。
- 磁場内を回転するコイルから発生する磁気エネルギー。トルク。
- 電気回路:
- フェーザ回路とインピーダンス整合
- MOSFETの利得の計算
- 電磁気学:
- 2022年:
- 電磁気学:
- 極板に誘電体を挿入したときの仕事、エネルギー。
- 荷電粒子の運動(ローレンツ力、クーロン力)
- 電気回路:
- ソース接地回路の利得の計算
- 節点方程式と電流の関係
- 量子力学/物性基礎:
- 階段ポテンシャルに入射する粒子の透過率の計算
- p型半導体のドリフト電流、拡散電流の計算。
- 電磁気学:
- 2021年:
- 電磁気学:
- 同軸ケーブルとキャパシタンス
- 平行平板線路のインダクタンス、キャパシタンス、位相特性。
- 電気回路:
- LCR直列回路の伝達関数、周波数特性、ステップ応答
- 重ね合わせの理を用いたLC並列回路に流れる電流の計算
- 三相交流における線間電圧、電流の実効値の計算
- 量子力学/物性基礎:
- 井戸型ポテンシャルにおけるエネルギー固有値、確率密度の図示
- 半導体中の電気伝導。電位の算出。
- 電磁気学:
- 2020年:
- コロナにより、問題開示無し。
- 2019年:
- 電磁気学:
- 球状電荷から発生する電場。重ね合わせ。
- 円環電流、トロイダルコイルから発生する磁場の計算
- 電気回路:
- RC直列回路における過渡現象
- CR積分回路(オペアンプ)の特性
- 量子力学/物性基礎:
- 非対称井戸型ポテンシャルにおける波動関数の計算。固有状態。
- 真性半導体におけるバンドギャップ。正孔密度の計算。
- 電磁気学:
全体的に、幅広い分野から問われます。160分で完答するには厳しい分量でしょう。解ける問題から点数を確保する作戦にした方が良いでしょう。
電磁気学のオススメ教科書、問題集
他の科目と比較して、点数の安定させやすいことが特徴です。数学、電気回路とは異なり、境界条件などで検算ができるからです。是非、質と量ともに演習を深め、得点源にすることをオススメします。
一般教養で設定されている専攻科もありますが、電気電子系のシラバスに沿って紹介していきます。
電磁気学 (電子情報工学ニューコース 1) 浅田 雅洋 (著), 平野 拓一 (著)
絶版になっていますが、、なるべく欲しいです。本書の類題が出題されることがあります。ベクトル解析の対策にもなります。ただし、万単位のお金を払ってまで購入するのはやり過ぎだと思います。フリマサイトにて安価で売っている際は、購入すると良いと思います。
また、所属する大学の図書館で蔵書されている際は、必ず借りてみましょう。
電磁気学 末松 安晴 (著)
個人的には微妙です。昔の本だけあって、理論的な解説は細かくなされていますが、演習問題に解答が無いです。先の教科書がどうしても手に入らないときの保険として購入しても良いかもしれませんが、ここまで来れば自大の教科書をやりこむでも問題無いと思います。
演習に関しても、しっかり演習した方が良いです。
電磁気学演習 (理工基礎物理学演習ライブラリ 3) 山村 泰道 (著), 北川 盈雄 (著)
他大の記事でも紹介していますが、東工大対策においても十分使えます。面電荷を持つ導体が回転したときの磁場、磁気モーメントの算出など、試験で問われる事柄を取り上げています。分量的にも最適ですので、春休みで仕上げておけば、電磁気は十分でしょう。
詳解電磁気学演習 後藤 憲一 (著), 山崎 修一郎 (編集)
同じく、不明な問題を調べる役割で使用しましょう。オススメは第4章~第8章です。鏡像法、同軸ケーブル、インダクタンスに関わる問題は是非チェックしましょう。
電気回路
新しい電気回路<上下> (KS理工学専門書) 松澤昭 (著)(オススメ)
電通大のシラバスでも紹介されている教科書です。最近の本だけあり、見やすくまとまっています。まだ、電気回路の教科書を持っていない方は購入をオススメします。
3.詳解 電気回路演習(上下) 大下 眞二郎 (著)
フェーザ回路と過渡現象がそれぞれ上下に分かれているので、なるべく2冊買いたいです。経済的な都合でどうしても片方だけならば、その時は上巻をオススメします。
過渡現象は、ラプラス変換を行い、決められた手順に基づいて解いていく作業に対し、フェーザ回路の方はいくつか問題形式が分かれるためです。
電子回路
講義資料から作問されることが多い印象です。シラバスの資料を勉強した上で、下記の本を購入すると良いかもしれません。
はじめてのアナログ電子回路 基本回路編 (KS理工学専門書) 松澤 昭 (著)
「基本編」と書かれていますが、ある程度高いレベルまで記載されています。院試対策的には、このレベルで十分だと思います。勉強した内容の総復習の位置づけでの購入をオススメします。
量子力学
理工系のための解く!量子力学 伊藤 治彦 (著)
普通です。他教科書とあまり変わらない印象を受けます。量子力学に共通して言えることですが、微分方程式を解く学問になっています。手計算で解くことができる状況は限られているので、致し方ないかもしれません。東工大にのみ使用するならば購入して良いかもしれません。
半導体デバイス/物性
半導体工学(第3版)高橋清・山田陽一 森北出版
薄めの本です。物性分野の話があまり説明されておらず、個人的には、この一冊で対策をやりきるには厳しいと思います。半導体デバイスの初学向けの本として購入してみても良いかもしれません。購入した際は、1~3章を必ずやり切りましょう。
電子デバイス 宮本恭幸 培風館 (オススメ)
分厚めの分、内容が詳細に書かれています。他科目との兼ね合いがありますが、半導体デバイスの対策にはなるべく本書を使用したいです。1,2章は量子力学の内容が書いています。9章(光デバイス)までは必ず確認しましょう。
物性に関しては、教科書を見つけることができませんでした。上記の2冊では少しの説明になっているため、専門書を別で1冊購入した方が良いです。
初歩から学ぶ固体物理学 (KS物理専門書)
問題自体はそこまで難しくない基本的なものなので、入門書を使用しての対策で良いと考えます。
対策に使える他大学の問題
前回の記事と繰り返しになりますが、基本的に、講義資料やシラバスが充実しているので他大学まで手を伸ばす必要は無いかもしれません。参考程度に載せます。
分量、形式ともに東大が合っています。ただ、物性だけは阪大の問題も確認した方が良いかもしれません。また、個人的には東工大の方が難しい問題が多いと考えています。(採点基準が不明ですが)
東大の問題が解けるからと言って、油断しないようにしましょう。