はじめに
本記事は、院試に向けた電子回路の基本事項のまとめ記事になります。過去に、電磁気学、電気回路のまとめ記事を紹介しました。予想以上の反響を頂き、電子回路についても作成することにしました。
電子回路では、バイポーラトランジスタ、MOSFETの小信号等価回路が頻出です。また、各接地方式それぞれに対する特性についても説明問題で問われることがあります。他、オペアンプ回路に関する問題も問われることが多いです。
本記事では、上記の項目を中心に基本事項を取り上げるとともに、動作原理についても取り上げていきます。
バイポーラトランジスタ
構成と動作原理
電子を放出するエミッタ、電子を収集するコレクタ、両者の間の障壁としてベースが存在しています。ベースに順方向電圧をかけると、障壁が下がり、エミッタからコレクタへ電子が流れ、導通状態となります。

半導体デバイスが試験科目に無く、電子回路のみ出題する大学は上記の事項を簡潔に問うことがあります。志望大学に応じて覚えておきましょう。
エミッタ電流$I_E$、ベース電流$I_B$、コレクタ電流$I_{C}$には下記の関係があります。
\begin{aligned}I_E=I_B+I_C\end{aligned}
使わないことは無いので、必ず覚えましょう。
接地方式
一般的に、外部電源に対しバイポーラトランジスタを接続、出力側の電圧を利得として出力する構成です。先述した通り、バイポーラトランジスタにはエミッタ、ベース、コレクタの3つの端子があり、それぞれの接地方式が存在します。下記で、特性を見ていきましょう。
| 項目 | エミッタ接地 | ベース接地 | コレクタ接地 |
| 入力インピーダンス | 中程度 | 低い | 高い |
| 出力インピーダンス | 高い | 高い | 低い |
| 電圧利得 | 大きい | 大きい | 小さい(約1) |
| 電流利得 | 大きい | 小さい(約1) | 大きい |
筆者の経験上、試験ではエミッタ接地が最も出題されます。エミッタ接地の場合、電流、電圧利得ともに大きくなります。必ず押さえておきましょう。ただし、高周波になると利得が低下する課題も存在します。ミラー効果と言いますので、知らない方はこちらの記事がオススメです。
一方で、ベース接地、コレクタ接地の場合です。それぞれ、電圧利得、電流利得が大きくなります。これは、小信号等価回路の計算をすることで導くことができます。下記で紹介しています。
小信号等価回路の作図
与えられた線形素子と元々の非線形素子に対し端子(エミッタ、ベース、コレクタ)が合うように置き換えれば良いです。置き換える線形素子は、問題で必ず与えられていますので、与えられた図に沿って置き換えましょう。
例として、エミッタ接地回路の置き換え図を示します。

置き換えた後の図では、線形素子の計算で入力電圧、出力電圧の比を取ることで、電圧利得を求めることができます。詳しくは各記事で示しています。
電流増幅率
ベース接地電流増幅率$\alpha$、エミッタ接地増幅率$\beta$には下記の関係があります。
\begin{cases}\alpha=\dfrac{I_{C}}{I_{E}} \\ \beta=\dfrac{I_{C}}{I_{B}}=\dfrac{I_{C}}{I_{E}-I_{C}}=\dfrac{\alpha}{1-\alpha}\end{cases}
$\alpha,\beta$の定義として、コレクタ電流に対する各々の電流の比であることに起因しています。詳しい導出は、こちらの記事で説明しています。
電流帰還バイアス回路、電圧帰還バイアス回路
問題によっては、外乱に対する安定性を問われることがあります。安定性を説明する回路として、電流帰還バイアス回路、電圧帰還バイアス回路の2種類あります。
両者ともに、外乱パターンとしてコレクタ電流$I_c$が大きくなった時のフィードバック(FB)要因を考えます。
- 電流帰還バイアス回路は、エミッタ電流が大きくなるFBがかかり、その結果下流の電圧降下が大きくなることで、コレクタ電流が小さくなる時系列で安定になります。
- 電圧帰還バイアス回路は、コレクタ電流が直接抵抗$R_{2}$の電圧降下に影響するFBがかかり、安定になります。
MOSFET
電界効果トランジスタと言います。昨今の半導体素子は、こちらで構成されていることが多く、様々な大学の院試でよく出題されています。バイポーラトランジスタはあまり出題しない大学はありますが、MOSFETに関してはほぼ全ての大学で出題されます。
構成と動作原理
電圧をかけるゲート(G)、電子を放出するソース(S)、電子を収集するドレイン(D)の3つの端子からなっています。
動作原理:
ゲート-ドレイン間に電圧$V_{GS}$をかけると電子の反転層(チャネル)が発生します。この状態でドレイン-ソース間に電圧をかけると、ソースからドレインへ電子が流れ、MOSFETとして駆動します。

バンド図としては下記のように表されます。
(空乏、反転がよく出てきます。半導体デバイスの院試問題で出題されることが多いですが、参考程度に知っておくと良いです。)

nMOSとpMOS

一般的に使われるのはnMOSです。ゲートに電圧をかけないと動作しない(論理値=0 FALSE)を示すMOSFETになります。一方で、ゲートに電圧をかけずとも1を示す(電圧をかけると0になる)逆の特性を示すMOSFETも居ます。これをpMOSと言い、nMOSとの関係が逆になっています。
論理回路(AND,OR)としての作図問題も大学によっては出てきます。nMOS、pMOSどちらを使用するのか注意しながら解いていきましょう。
小信号等価回路
バイポーラトランジスタと同じく、非線形素子部に対し与えられたシンボルを置き換えれば良いです。
よく、下記のように与えられます。

実際に回路特性を導いている記事は下記になります。
バイポーラトランジスタの接地方式として、エミッタ接地、ベース接地、コレクタ接地の3種類ありました。MOSFETとしても、ソース接地、ゲート接地、ドレイン接地の3種類あります。
それぞれ、下記のような特徴があります。
| 項目 | ソース接地 | ゲート接地 | ドレイン接地 |
| 入力インピーダンス | 非常に高い | 低い | 非常に高い |
| 出力インピーダンス | 高い | 高い | 低い |
| 電圧利得 | 大きい | 大きい | 小さい(約1) |
| 電流利得 | 大きい | 小さい(約1) | 大きい |
バイポーラトランジスタとMOSFETの違い
バイポーラトランジスタは電流制御素子であるのに対し、MOSFETは電圧制御素子になります。この違いから両者の特性として下記のような優劣があります。
| バイポーラトランジスタ | MOSFET | |
| 制御方式 | 電流制御 | 電圧制御 |
| 入力インピーダンス | 低い | 非常に高い |
| 駆動に必要な電流 | ベース電流が必要 | ほぼ不要 |
| スイッチング速度 | 低速 | 高速 |
| 消費電力 | 大きめ | 小さい |
| 用途 | アナログ増幅 | デジタル回路、電力変換 |
消費電力がMOSFETの方が小さいため、微細化(集積化)に有利だ。ということは必ず押さえておきましょう。院試だけでなく、一般常識としてスイッチング周波数と容量について下記グラフになっています。

院試ではあまり問われませんが、IGBTがMOSFETとバイポーラトランジスタの中間の特性を持つことは一般常識として覚えておきましょう。
オペアンプ(演算増幅器)

微小な信号を増幅できる素子になります。フィードバック要素との関係にもよりますが、増幅率$A$、帰還率$H$のとき、$Re(AH)≧1$で発振条件を満たします。
代表的な回路
下記、加算回路と減算回路の利得は必ず導出できるようになりましょう。
詳しくは、こちらの記事で示しています。
加算回路

\begin{aligned}v_{o}=-\dfrac{R_{f}}{R_{1}}v_{1}-\dfrac{R_{f}}{R_{2}}v_{2}\end{aligned}
減算回路

\begin{aligned}v_{o}=\dfrac{R_{1}+R_{f}}{R_{1}}\left(\dfrac{R_{3}}{R_{2}+R_{3}}v_{2}-\dfrac{R_{f}}{R_{1}+R_{f}}v_{1}\right)\end{aligned}
AD変換回路
オペアンプは、単なる増幅器だけでなく、コンパレータとしても使うことができます。この性質を用いて複数のオペアンプを直列に接続し、各々に印可する比較電圧を段階的に変えると、入力電圧のレベル、bit割付ができます。

コンデンサ型の変換回路もありますので、合わせてどうぞ。
DA変換回路
アナログデジタル変換回路があるのならば、逆の変換回路も存在します。むしろ、こちらの方が院試の問題としては頻出になります。阪大や広島大で見たことがあります。

上記のように離散的な信号を合成し、出力電圧$v_{o}$を実現します。入力抵抗は、2の累乗で割って並列に接続します。細かいほど、滑らかな出力値を表現できます。
上記は電流加算型でしたが、ラダー型の回路についても存在します。合わせてご覧ください。
コルピッツ発振回路
先述のように、フィードバック要素との関係でオペアンプ回路は発振する場合があると説明しました。九大は、この性質をよく出題します。同大学を出願する方は必ず押さえておきたいです。
回路は複雑であることが多いものの、結局発振条件に合うように回路方程式の実部、虚部に条件を与える作業に終始します。
ハートレー発振器も出題されますので、合わせてご覧ください。
最後に
電子回路は、出題パターンが限られているため、得点期待値が高い科目になります。本記事が、選択科目の一つにする理由になると幸いです。












